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水野 康さん
国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
宇宙医学研究センター宇宙医学生物学研究室招聘研究員 /
東北福祉大学教育学科准教授

Q:水野先生は「睡眠」の研究者なんですか?

水野:そうですね。睡眠科学やスポーツ科学を研究しています。元々は運動生理学が中心的な研究テーマで、90年代に5年間ほどJAXAで宇宙飛行士の運動プログラムを担当していたんです。その中で、宇宙飛行士の睡眠についても深く関わるようになり、睡眠を改善するための生活習慣の工夫や、睡眠と健康の関連が大きな研究テーマになってきました。

Q:宇宙飛行士にとっても「睡眠」は大切ですよね?

水野:もちろんです。宇宙船や宇宙ステーションの中で、睡眠不足はヒューマンエラーに直結します。

1997年に、ロシアの宇宙ステーション『ミール』と無人補給船のドッキングテスト作業中に起きた衝突事故は、実は居眠りが原因だった可能性も考えられます。ちょうど、昼下がりの眠くなる時間の作業だったんですよ。

この事故では、太陽電池パネルの破損による電力低下や気密漏れなどの問題が発生しましたが、幸い、人命に関わることはありませんでした。有名なのは、チェルノブイリの原発事故で、夜勤中の作業員の眠気によるヒューマンエラーが原因ではないかといわれています。今のところ、宇宙で居眠りによる大きなトラブルは起きていませんが、運がいいだけかも知れません。

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ISSの個室で睡眠の様子を再現する若田宇宙飛行士 JAXA/NASA

水野:電車の中で居眠りすると、頭がガクッと倒れて目が覚めたりすることがあるでしょ。でも、無重力の宇宙ではガクッとならない。作業中に動きが止まって、そのまま静かに眠り込んでしまうようなことが起こりえます。

ヒューマンエラーが大きなトラブルの原因にならないように、宇宙飛行士は睡眠をとても大切にしているといえるでしょうね。また、不眠は精神的な不調と合併して現れやすいので、宇宙飛行士のメンタルケアの側面からも睡眠が重要です。

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宇宙でも地上でも、居眠り運転は禁物!

Q:宇宙で、ちゃんと睡眠をとるために宇宙飛行士が何かやっていることはありますか?

水野:プライベートな習慣まではわかりませんが、ことさら睡眠のために義務づけられているようなことはないと思います。研究者の立場としては、腕時計タイプの計測機器などを活用して、宇宙飛行士の運動や睡眠、生活パターンのサンプルを集めてきました。

ひとつ言えるのは、宇宙飛行士は宇宙にいるときのほうが「守られている」ということですね。宇宙ステーションは約90分で地球を一周しますから、一日24時間というリズムは計画的に作っていくことになります。その中で、1日8時間以上の睡眠時間が確保されています。
地上にいるときの宇宙飛行士は訓練やさまざまなスケジュールに追われてとても多忙です。でも、宇宙に旅立つと規則正しい生活が送れるように、地上からサポートもしているんです。

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宇宙飛行士も寝る時はカジュアルな装いです……。 JAXA/NASA

水野:今までの計測データでわかっていることとしては、8時間程度の睡眠時間が確保されているものの、実際に宇宙飛行士が眠りについているのは6時間程度ということです。また、宇宙飛行士の飛行中の日誌記載事項では、「睡眠」のトピックはトップ10に入り、そのほとんどがネガティブな内容だそうです。

Q:やっぱり、宇宙船の中ではなかなか眠れなかったりするんでしょうか?

水野:いえいえ、宇宙飛行士は宇宙でとても規則正しい生活を送っていますから、基本的にはみんなしっかりと眠っています。

とはいえ、宇宙で睡眠の質が悪くなってしまうと感じる傾向の原因としては「光」の不足が影響しているのではないかと言われています。ISS(国際宇宙ステーション)の内部は、電力の制約もあってそんなに明るくありません。一番明るいところで1000ルクスくらいだと思います。

晴天の昼間、屋外の明るさは約10万ルクスといわれています。曇りだと5000〜7000ルクスくらい。起きてすぐに朝日を浴びるといいとよく言われるように、明るい光を感じることは睡眠の質を高めるためにとても大切なことなんです。

光は目で感じます。ISS全体を明るくするのは難しいので、バイザー(目を覆う)のような器具を使って飛行士が定期的に明るい光を感じるような試みはされています。

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Q:寝室に蛍光灯の光はあまりよくないというのも「光」の問題ですよね?

水野:そうですね。蛍光灯の光は目が覚める効果が強くあります。たいていの人が寝る前に歯を磨くと思いますが、一度、意識してみてください。眠気を感じて洗面所に行って歯を磨く。洗面台の明るい蛍光灯に顔を近付けて歯を磨くと、みるみる目が覚めていくのを実感できるはずです。

ただ、蛍光灯だからよくないとは言い切れません。目が覚めてしまうのは、光の質(色)と照度(明るさ)が関係します。

たとえば、以前のコンビニは深夜でも蛍光灯が明るく輝いていて、塾帰りの子どもたちが立ち寄ると目が覚めてしまって生活リズムを崩してしまうという問題がありました。ところが、東日本大震災とその後の節電意識の高まりで、コンビニでもLED照明を導入するところが増えて、それまで真夜中でも3000~5000ルクスくらいあったのが1000とか700ルクスくらいの明るさに抑えられるようになっています。子どもたちへの影響も軽減されたのではないでしょうか。

このエピソードも、蛍光灯がLED照明に替わったこともメリットのように思われがちですが、5000ルクスが1000ルクスになった「明るさ」の違いがポイントです。普段、明るさってそんなに意識していないですよね。でも、デジタルカメラを使う時、屋内から屋外に出るといきなり画面が真っ白になってしまうように、身の回りの明るさには劇的な違いがあることを知っておくといいでしょう。

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寝る直前に、明るい光を見ないようにしたほうがいいね。

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クルーが就寝している時間帯の国際宇宙ステーション(ISS)内の様子。
ドット状の照明は、緊急事態が発生した際に、クルーをソユーズ宇宙船まで誘導するために点けられているもの。 NASA

Q:そもそも「いい睡眠」ってどんな眠りなんでしょう?

水野:もっともわかりやすいのは「途中で目が覚めない」ということですね。研究の用語としては「睡眠維持」というんですが、細切れに目覚めることなく、ぐっすり眠ったと感じて目覚めることができるのが「いい睡眠」といえます。

Q:「いい睡眠」のために、何か効果的な方法はありますか?

水野:睡眠の質が悪くなってしまう最もありがちな原因は「寝るべきでない時に寝てしまう」ことです。長い時間昼寝したら、夜眠れなくなってしまうのは当然でしょう。

宇宙飛行士はISSのような閉鎖的な空間でストレスのかかる生活を送っていますが、寝るべき時にはしっかり眠っています。選び抜かれた、精神的にも肉体的にもタフな人たちで、筋力を維持するためのワークアウトもしっかりとやっているという側面もあるでしょうが、宇宙飛行士がちゃんと「いい睡眠」をとれる最大の理由は「起きている時間がすごく忙しい」ということなんだと思います。忙しく働き、活動と休息のメリハリが効いているからこそ、「寝ていいよ」という時間になるとスムーズに眠ることができるんですね。

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Q:ごもっともです……。一般人でも、しっかり運動するほうが睡眠の質もよくなるんでしょうか?

水野:日常的に運動をしている人とそうではない人を比較すると、明らかに運動している人のほうが「いい睡眠」が多いといえます。また、マシントレーニングのように瞬間的な筋力を使う運動よりも、マラソンなど持久力を使う運動をしているほうが、深い睡眠になるという傾向があります。

睡眠の質には深部体温が関わっています。マシントレーニングなどは休む時間も長いので、深部体温は上がりにくいですが、マラソンなど持久系の運動はしっかりと深部体温が上がりますから、睡眠の質もよくなるということでしょう。

また、睡眠には体温を下げる働きのほか、体内に蓄積した活性酸素を解毒する働きもあるといわれています。しっかり運動していい睡眠をとることは、健康維持にとっても大切なことなんです。

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いい睡眠の大敵は「惰眠」ってことですね……。先生、ありがとうございました!

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水野 康さん
国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙医学生物学研究グループ招聘研究員 /東北福祉大学教育学科准教授
筑波大学体育科学研究科修了後、筑波大学助手を経て1996年から日本宇宙航空環境医学会評議員。1997年より宇宙開発事業団(当時)招聘研究員。


『週刊若田』(Vol.10) 「国際宇宙ステーションの寝室」 JAXA/NASA

筑波宇宙センターを「睡眠目線」で見学したよ!

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水野先生の取材は『筑波宇宙センター』で行いました。インタビューが終わったあと、水野先生と一緒に展示館『スペースドーム』へ。ここには国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟の実物大モデルが展示されています。

「きぼう」は個室などがある居住スペースではないですが、性能がよくて静かなので海外の宇宙飛行士にも「静かでいい。ここで眠りたい」と好評なのだとか。

また『筑波宇宙センター』では、実際に稼働している「きぼう」運用管制室や宇宙飛行士養成エリアなど、宇宙研究開発施設の一部を見学できる『ガイド付き見学ツアー(要予約)』も行っています。予約はウェブから!

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それでなくても興味いっぱいの施設ではあるけれど、「睡眠」という視点をもって巡るといろいろと面白い発見ができますよ!

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『筑波宇宙センター』見学案内

http://www.jaxa.jp/about/centers/tksc/

開館時間/10時〜17時
休館日/月曜日(祝日、夏休み等の月曜日は開館)、年末年始、施設点検日
入場料/無料

『ガイド付き見学ツアー』予約はこちら!
http://fanfun.jaxa.jp/visit/tsukuba/tour.html#visit_tour

更新日:2016年8月25日 書いた人:寄本好則

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