ヤマザキマリさん
インタビュー

私たちは
ホリゾンタル
クリーチャー。

ある時は漫画家、ある時はエッセイスト、はたまたテレビの出演、ライブ活動などなど、多彩な顔を持つヤマザキマリさん。漫画『プリニウス』(とり・みきさんと共著)や『スティーブ・ジョブズ』も現在、大好評連載中です。

そんなヤマザキさんは、普段はイタリアに在住し、日本にもしょっちゅう帰国。しかも数多くの連載やテレビ出演を縦横無尽に、タフにこなしています。そんなヤマザキさんに、漫画家の睡眠、古代ローマ時代の睡眠事情、イタリアと日本の睡眠事情の違い、などなどをたくさん聞いてきました。そしてもちろん、「ヤマザキマリと睡眠」についても。

全4回更新の、今回は第1回目です。

目次

第1回 猫も人間も、寝るのがデフォルト
– 信頼関係がある生き物は一緒に寝る
– 水木しげるさんと手塚治虫さんとヤマザキさんの寝方
– 眠れる国、眠れない国

第2回 古代ローマ時代の夢と現実
– 飛行機で寝れますか?
– 現実と夢が分かれていない世界を漫画に描く

第3回 寝ることを大事にする人、しない人
– キリスト教の眠り、古代ローマ人の眠り
– 「寝てばっかりじゃダメ」な社会への反抗
– 人間は進化しない

第4回 もっとどんどん横になろうぜ!
– ヒトはホリゾンタルクリーチャー
– 立っているものは不自然、寝ているのが自然
– 寝てるのがとにかく正しい

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第1回
猫も人間も、寝るのがデフォルト

ヤマザキさんの日本での滞在先には、いろいろな猫グッズが手の届くところにあります。生まれた時からそばに猫がいて、ずっと猫と一緒の生活が続いているから、どこの国だろうと猫がいない生活は考えられなくて、ついつい猫の形をしたものを買ってしまうそうです。インタビューも、猫の話から始まりました。

信頼関係がある生き物は一緒に寝る

ヤマザキ 猫が寝ているのを、間近で見ていると眠くならないですか? こっちが仕事でパニックになっている時に、うちの猫がそばで、うとうとしているのを見ると、仕事をやる気がたちまち失せてくる。

しかもうちの猫はいびきをかくんですが、エスカレートすると人間のおっさんなみの、ビヤーって音も出る。もう、それが聞こえてくるだけで仕事できないです。ああ、何も気にせず好きな時に眠れる猫になりたい!と、一体今までに何度思ったことか。

でも、眠っているものがそばにいると思うだけで落ち着くんですよね。本当だったらこんなにあくせくしなくてもいいはずなんだ、って気付かせてもらえるだけで随分気持ちが楽になる。周りなど全く頓着せずに、自分のペースで眠ったり休んだりしてくれている生き物がそばにいると、私も気が楽です。特に猫はやはり寝ている姿が素晴らしいですからね。立ち止まってうずくまった瞬間から寝オーラがでている(笑)。

- 寝るときも猫は一緒ですか?

ヤマザキ 寝る時は必ず布団に猫がいます。うちの猫は抱っこされるのが慣れていない猫なので、覚醒しているときは私にもなかなか近寄らないんですよ。でも寝ていると必ず私の布団の上に来て、私がいるところでまず前足でモミモミやって、肉の感触を確かめてからどかっと身体を投げ出し、寝モードに入るんです。


昔飼っていたアラビア猫のゴルム(左)と今飼っているベレンちゃん(右)のレリーフ

- 布団の上で寝るんですか。中には入らない?

ヤマザキ 寒い時は中に入ることもありますけど、冬もたいていは暖房がついているので、布団の上で寝ています。

一匹ならいいんですけど、昔、イタリアで猫をつがいで飼っていたら七匹も子供が生まれてしまって、合わせて九匹になったことがあって。ちっちゃいうちは私の上に乗って寝てても全くよかったんですけど、三ヶ月くらいの大きさになったころから重みによる圧死の危険性を感じ始めました(笑)。

あの時は流石に悪いなと思いながら部屋から猫を追い出して寝なきゃならなかった。まあ、猫の重みで圧死でも、それは私にとっては大往生と言えるんですけど・・・。

- なんで布団の上に乗るんでしょうね。

ヤマザキ やっぱり感触が柔らかいのと、フトンの中よりも開放感がある。あと、眠る時はやはり信頼関係のある生き物のそばに居たくなるのかもしれませんね。母の家にいる犬は猫と一緒に寝てますよ。

- 信頼関係があるものが一緒に寝るというのはとてもわかります。

ヤマザキ 私は見た目は全然猫の形をしていないし、猫の匂いもしないのに、同類と思われているんじゃないかと感じさせられる時があります。

それから、猫という生き物はなぜか人間が寝るとそれに誘導されて寝ますね。え? さっきまで寝てたじゃん、って思うんですけど、猫はいつも寝ることに対しては「スタンバイ・オッケー」なんでしょうね。猫って、寝る子、たくさん寝るから猫っていう、っていう説があるくらいですからね。

だから犬を見ていると真面目すぎて気の毒になってきちゃって。そんなに人間に気に入られるように生きなくたっていいのに、と思うんです。猫はいつでもマイペースだし、誰が何していようと寝るのがデフォルト、寝るのが本当の姿、という姿勢の生き物ですよね。


眠るベレンちゃん(ヤマザキマリ公式ブログ 2009年10月の画像より

水木しげるさんと手塚治虫さんとヤマザキさんの寝方

- 寝るのがデフォルトですか。

ヤマザキ 私の中学校の時の国語の先生が、すごく授業をするのが苦痛そうな人だったんです。かなり高齢の方だったんですけど、いつも話が脱線してしまい、二言目には「わたしは人間の本来の姿は寝てる姿だと思うんですよね。立って動いているのは不自然なんです」ってやたら繰り返すんですよ。

本人もいつも眠い人だから、(授業中)居眠りとかしてる人がいても「仕方がないな」って言ってくれる、眠り全般に対してとても寛容な先生だったんです。

- 素晴らしい先生です。

ヤマザキ 水木しげる先生も、ご生前はとにかく力説してらっしゃいましたね。人間は眠らないとダメなんだって。手塚治虫先生や石ノ森章太郎先生が若くしてお亡くなりになったのは、沢山睡眠をとらなかったからなのだというのが水木先生の見解だったようで、そのことは漫画にも描かれています。

- 人生の三分の一は寝るってことに気づくと、ギョッとする人もいます。

ヤマザキ そこでギョッとして、やばい、もったいない、その分何かにあてないともったいない! と思うか、人生の三分の一も寝てるなんて素晴らしいな、と思えるかが分かれ目ですね。生きている時間に対する眠りをどう捉えるか、の違いというか。水木先生は8時間でも済まなくて、1日10何時間寝ていたそうです。寝ることこそが、生きる全ての原動力だとおっしゃってました。

- 手塚先生は布団で描いていたという伝説もあります。

ヤマザキ 手塚先生はきっと寝るのがもったいない、寝る時間があったら作業を! と思ってしまう方だったのでしょう。締め切りがてんこ盛りのときは机と机の間の溝とかで寝てたりしていたらしいですけど、確実に睡魔に支配されるまでは眠れないのでしょう。寝ることをもったいなく思っちゃう。私も、水木先生を見習いたいと心の底では思ってはいるのですけど、十分眠っているとは言えません。

ー ヤマザキさんの毎日の睡眠時間は?

ヤマザキ 4〜5時間くらいです。昼寝もしない。だからと言って眠るのが嫌だとか、眠る時間がもったいないと思っているわけじゃなく、できることならもっともっと眠りたいんです。

- 子どもの頃からですか?

ヤマザキ 子どもの頃からそうです。朝起きるのが辛い、とかはなくて潔く目が醒めて起き上がる。4時間くらいではあっても、多分もの凄く深く寝ているんでしょうね。でも本当はその深く眠る状態を、もっと長く続けられたらいいなと思うのですけど。

- 夜の1時から朝の5時くらいとか、そんな感じですか。

ヤマザキ だいたいそんな感じです。だから、イタリアでも日本でも朝5時起きです。生き物の種類としては夜行性ではなく、日の出とともに目覚めて昼間に活動するニワトリみたいな動物なんだと思います。

意図せず朝早くに目が覚めてしまった時に「まだ早い。今日はもっと寝よう」と思ってフトンを被りなおして目をつぶっても、意識は目覚めてるから、どうでも良い事も含めていろいろな考え事が頭を巡ります。そうするともう立ち上がって机の前に座っている。

- 布団で目覚めるとすぐに起きたいと思うんですか。

ヤマザキ はい。いろいろ思いが巡り始めると布団の中に滞り続けるのがむしろ辛くなってくる。

- イタリアの人ってみんなベッドで朝ゆっくりする印象があります。

ヤマザキ たいていはそうかもしれませんね。うちの旦那などを見てても、いったい何時間寝てるの、って言うくらい寝てますよ。夜は9時くらいに「はい、じゃぁおやすみ」ってそれぞれの部屋に入って、向こうは仕事ちょっとしてから寝るみたいですが、それでも10時くらいには寝るらしい。夜更かしは絶対なし。で、朝の7時には起きているそうだから睡眠9時間ですかね。

しかも絶対に昼ごはんのあとには昼寝する。しないと「今日調子悪いのは昼寝していないからだ」ってむちゃくちゃ機嫌が悪くなるんです。「昼寝をしたほうが絶対集中力も仕事の効率も上がる」と言っていますし、まさにその通りだとは思うんですけどね。


『イタリア家族 風林火山』(ヤマザキマリ ぶんか社)より

- ビジネスマンがちょっと昼寝すると効率が上がるとか言われているのは、20分くらいで、1時間は長いですね。

ヤマザキ ええ。でも彼は1時間くらいは横になっていないとダメらしい。お義父さんもそうですね。家の習慣みたいですね。

眠れる国、眠れない国

- イタリアのお家にも寝そべることができるカウチがあるんですか(日本の滞在先にはとても居心地の良さそうなカウチがありました)。

ヤマザキ ありますけど、あまりそこでは寝たい気持ちが起こらないんですよ。イタリアの我が家は500年前に建てられた古い家なのですが、バドミントンができるくらい広い居間があって、そこに大きくて心地のよい素晴らしいソファがひとつ置いてあって。そこに寝そべると天井の500年前の梁が見えて、歴史とかいろんなこと考え始めてしまう。それで眠れなくなる。

窓を開けると大聖堂とか見える、するとやっぱりいろいろ考えてしまって落ち着かない。漫画みたいな仕事をしていることも影響しているのでしょうね、見えたり聞こえたりするありとあらゆるものが、私の中の睡欲を奪ってしまう。

- それはヤマザキさんだから覚醒するんですか

ヤマザキ 私に限らず、そういう人はいると思いますよ。私は少なくとも、いつも頭のどこかで、「あの梁はどこで伐採された木だったんだろう」「どんな職人さんがこの天井を設えたんだろう」「梁って大きさがかなり不規則だよな、なんでだろう」とか、窓から教会を見ていれば「大聖堂の天蓋ってもともと古代ローマ建造物の影響でああなったんだよな」とか、鐘がなれば「お葬式かな、礼拝かな」とかどんどん考えはじめちゃって、そこから話が浮かんで来たりすることもありますからね。


現在お住まいのイタリア・パドヴァのご自宅の窓から見える風景(ヤマザキマリさん提供)

- まるで参考資料の中で生きているようですね。

ヤマザキ 参考資料だと意識しているわけではありませんが、そうですね。ここ(東京)の家は、私を惹き付ける参考資料がないんです。世田谷公園とかをベランダから眺めていて、こんどあそこを舞台にした漫画に描こう、というのは今のところないです。変ですけど、だから東京では昼寝もできるし、気がついたら寝落ちていることもしばしばです。

- イタリアの人からすると、大聖堂が見えたりする方が心が休まるかもしれない。

ヤマザキ 彼らにとってはそうかもしれませんね。私はもともと美術を勉強するためにイタリアへ渡り、今はイタリアをネタにした漫画などの創作をしている。だからイタリアにいる間は根本的に気が休まらないんだと思います。

そういえば3年暮らしたシカゴもダメでした。シカゴで住んでいたマンションは60階建ての50階にあったのですが、朝の5時に窓の外を見れば、ちょうど隣のマンションの同じくらいのフロアにあるジムが見えて、おじいさんが朝の5時からジョギングマシーンで懸命に走ってるんですよ!

「ここでは人間は常になにかを生産し、前に進んでいかなければいけない。資本主義国家のあり方として人間は怠けてはいけない」という姿勢で皆生きている。ミシガン湖のそばのマンションだったんで、ちょっと散歩行こうかなって思っても、あまり散歩をしている人はいなくて、だいたいみんな(ジョギングで)走ってるんです。「走らないでゆっくり湖を見ながら歩けよ!」って思うんですけどね。「芝生があるんだから寝そべろよ!」とか。

後ろ向きに走ってる人もいましたからね(笑)。シカゴに暮らし始めた時は、誰も休んでいる人を見かけないこの国はどうかしている!って思っていました。

- 他の国はどうですか。

ヤマザキ シリアのダマスカスにいるときも、人々はまあゆったりのんびりしてはいるのですけど、私はやっぱり落ち着かなかった。モスクから1日に5回とか「アッラーフ・アクバル」とか聞こえる度に「あー、お祈りが始まった!」って反応してしまう。やはり自分にとって見慣れない、特殊で異質な文化圏では意識は常に覚醒しまくっています。

でも、ダマスカスの家の裏庭には猫がいっぱいいて、それはすばらしかった。アラビア人は猫が大好きなんです。みんな太って、ふくふくした猫が多かった。イタリアの猫もみんな太ってるし、ポルトガル人も猫が大好き。今まで暮らしてきた国は、大体みんな野良猫が太って健康そうな国ばかりでしたね。

私が基本的に楽しく暮らせる国は魚介類の出汁のわかる国か、猫好きの国か、なんです。だからアメリカは厳しかったですね。魚介類の出汁も分からなければ、シカゴの街中では野良猫にも出会えない。シカゴは建築を勉強していたり、ブルースが好きなミュージシャンとかには暮らしていて楽しい街かもしれないけど、私みたいに夫の仕事の都合だけで居る、というのには無理があったかもしれません。

とにかく“眠たさ”というものが全く感じられない街でした。

(第1回終わり 第2回はこちら)

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猫にはいつも眠り方面でお世話になっていますー。

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ヤマザキマリ

漫画家。東京都出身。14歳で欧州をひとり旅し、その後17歳でイタリアへ渡ってフィレンツェの国立アカデミア美術学院入学、美術史・油絵を専攻。1997年に漫画家としてデビュー。比較文学を研究するイタリア人研究者との結婚を機に、シリア、ポルトガル、アメリカを経て現在はイタリア在住。

2010年、古代ローマを舞台にした漫画『テルマエ・ロマエ』で第3回漫画大賞受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞、世界各国で翻訳出版される。

著書に『ルミとマヤとその周辺』『ジャコモ・フォスカリ』等多数。文筆作品では、『テルマエ戦記』『望遠ニッポン見聞録』『男性論』『国境のない生き方』『偏愛ルネサンス美術論』等こちらも多数。

現在は、『スティーブ・ジョブズ』(講談社:ハツキス)『プリニウス』(とり・みきと共著 新潮社:新潮45)『Gli Artigiani ルネッサンス画家職人伝』(とり・みきと共著 新潮社:芸術新潮)『ヤマザキマリの地球のどこかでハッスル日記』(WEB女性自身・エッセイ)を連載中。平成27年度 芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。

ヤマザキマリ公式サイト
ヤマザキマリ公式ブログ Sequere naturam

プリニウス』 
(新潮社 既刊 1〜5巻 共著:とり・みき)
博物学者、艦隊の司令長官、風呂好きの知識人、プリニウス。彼の時代を織り成す皇帝ネロ、ポッパエア、そして市井の人々を描き、当時の社会・文化をありありと浮かび上がらせた連載大河漫画。時代背景だけでなく、当時の世界の在りようを漫画ならではの手法で描き、国内のみならず海外でも出版、大好評を博している。現在も『新潮45』で連載中。
新潮社 Amazon

スティーブ・ジョブズ
 (講談社 既刊 1〜5巻 原作:ウォルター・アイザックソン)
ミリオンセラーとなったアイザックソンの伝記『スティーブ・ジョブズ』を完全漫画化。原作の面白さはもちろん、彼の足跡を辿るだけでなく、その思想にまで踏み込んだヤマザキマリ独自の視線も織り込まれ、相乗効果で面白さ2倍以上! 講談社『ハツキス』で好評連載中
講談社 Amazon

マスラオ礼賛
 (幻冬舎 エッセイ)
ヤマザキマリが偏愛する「男の中の男たち」=益荒男について縦横無尽に書かれている最新エッセイ。そのマスラオは、ハドリアヌス帝、安部公房、十八代目中村勘三郎から、ノッポさん、空海、山下達郎、とり・みき、果てはトムとジェリーのトムにいたるまで、総勢25名!ヤマザキ流「男性論」とも言える作品。
幻冬舎 Amazon

関連書籍
イタリア家族風林火山』 ぶんか社 Amazon
アラビア猫のゴルム』 講談社 Amazon
世界の果てでも漫画描き 2 エジプト・シリア編』 集英社クリエイティブ Amazon

更新日:2017年4月11日
書いた人:小森岳史
撮影:武藤奈緒美

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