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本来ならもっと大量の予算と人員を割き、国家規模で取り組まねばならぬ入眠調査があるとしたら、それは「人は寝るまでに何を考えているか」ではないだろうか。

ストレッチしてます、ゆっくりお風呂に浸かっています、本やスマホを見ています。そういった「行為」ならいくらでも客観的に観察できるし、本人も申告しやすくアンケート調査も容易だろう。

だがしかし、灯りを落として暗くなった部屋の中、布団をかぶって眠りに落ちるまでのあのまんじりともしない時間。そこで皆、どういったことを考えているかは、当人にみずから語ってもらうしか知る手立てがないのだ。

この人類のエアポケット的瞬間にいったいどれだけクリエイティブな思考が繰り返され、うち捨てられているのか。その叡智の全容を調べるためにも、大がかりな調査団と聞き取りメソッドを一刻も早く整備して欲しい。この連載を通じて何度でも繰り返すが、寝る前に何を考えているかなど、普通、人はまず話さないのだ。調査団が編成される際にはぜひわたしにも一声かけて欲しい。

さて、今回調査するのはそうした「頭の中で考えている」系統の中でも典型例である「頭の中でストーリーを考えている人」だ。完全に本人の都合と嗜好で話が進み、第三者にまったくとりつくしまがないという意味では、夢の話と共通するおもしろさ、あるいはつまらなさがある。なので今回、共感できない人にはまったく共感できないと思います。もちろん筆者としては長年求めていた宝物を手に入れたような充足感があるのだが。

話を聞いたのは、筆者が日ごろお世話になっているTBSラジオの局員・赤木舞子さん。TBSラジオの長寿番組「大沢遊里のゆうゆうワイド」のディレクター時代には、「パンティ赤木」として毎回パンティにかけた謎かけを披露する人として出演。同じくTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」では「怖いもの研究家」として数回ゲスト出演してもらっている。

彼女には他人にちょっと伝わりにくい「こわいもの」がたくさんあり(「なぞなぞ」「エアマックス96」など)その語り口がすこぶる印象的で、筆者に深い印象を与えていたのである。なにかとピーキーな彼女の入眠儀式、ぜひあなたにも知ってもらいたい。

入眠調査室室長:古川 耕

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入眠調査 FILE:08
眠る前に妄想で
物語を考えている人
(後編)

調査対象
赤木舞子さん (会社員)



1985年9月15日生まれ。マスコミ勤務の会社員。休日は趣味の御朱印集めに神社仏閣を奔走しているが、巨像恐怖症のため、鳥居をくぐるのが苦手。

睡眠問診票

入眠時刻と起床時刻 : 25:00~7:00
平均睡眠時間 : 6時間くらい
寝るときの服 :
Tシャツ&腹巻&ユニクロのリラコ
ベッドor布団 : ベッド
寝るときの部屋の明るさ : 真っ暗
寝る前に必ずすること : 妄想
睡眠とは? : 逃げ場

前編はこちら

映像よりは文章でイメージしている

古川 しかしすごい量の妄想ストーリーなんですね。

赤木 中学生ぐらいの時、「これはもしかして本にした方がいいのでは?」とか一瞬思ったことがあったんですよ。トチ狂って。すぐ止めましたけど。

古川 トチ狂ってないですよ。前回、世界観的には「アメリカンドラマ的ではない」って言っていたけど、じゃあ映画っぽい感じ? それともアニメ、マンガ、ラノベ的な感じ?

赤木 わたしはあんまりマンガを読んでこなかったので、そういう文化に馴染みがなくて。あと、この妄想ストーリーが始まったのはロンドンに住んでいた時だったので、日本に帰ってきてからもそういう影響は受けていないと思います。だからなにっぽいかって言われると……なんでしょう? 小説っぽいのかな?

古川 ああ、そうか。赤木さん、結構小説を読みますもんね。

赤木 はい。そうですね。どっちかと言うと文字にしたい感じ。映像というよりは。

古川 ああ。それで本に書こうかと思ったんですね。

赤木 そうですね。なんとなく。べつに文章で考えているわけじゃないんですけど。でも、どっちかって言うと、アプローチ的には絵よりも文字っぽいのかなって思います。分析してみると。

古川 へぇ〜。

赤木 なので「絵にしてくれ」って言ったのも、自分の中で顔とかそういうのは全然浮かべてなかったから。それを絵にしてもらいたい願望があったんだと思います。

古川 なるほどね。

自分の考えた自分の話に興奮

古川 あと、妄想ストーリー系の人の話に多いのが、反復型なんですよ。お決まりのキャラクター、お決まりの世界観でお決まりの話を繰り返している、それが入眠のスイッチになっている、というような。文字どおりルーティーン化されているんですね。そういう定番の話ってないんですか?

赤木 ないですね。

古川 おや。

赤木 なのでわたし、たぶん寝るために考えていないんですね。眠くなるために考えていなくて、話を進めるために考えてますね。たぶん。

古川 ああ、そうか。入眠の儀式になっていないんだね。

赤木 ただ単に寝る前にやっていることであって、入眠の儀式ではないと思います。

古川 ないんですか。

赤木 なので、本当にお恥ずかしい話、自分で考えた話に胸を打たれて、「これ、寝れねえな!」ってなることもあるぐらいで。

古川 コスパいいね!

赤木 ハハハハハ!

古川 ああ、そうですか。なるほど。そのパターンの人だ。

赤木 はい。なので、たぶん、寝るまでの時間が楽しければいいと思っている。「眠れない」っていうことに対しての強迫観念があるから、それを忘れるために楽しいことを考えようっていうことなんじゃないかと。たぶんルーティーンでやっていたら飽きちゃうから。

古川 へぇ……。じゃあ、もう常にこの世界観、このキャラクターたちを育てていくというか……。

赤木 話を進めています。

古川 じゃあ本当に真っ暗の、眠れない時間をやり過ごすためにやっていることであって、眠りに向かっていくための儀式ではないと。

赤木 そういうことではないです。

古川 ないんだ。ああ、そうなんですね。

赤木 だから修学旅行とかも、わたしはひとりだけ眠れなくて、いつも最後だったんですね。で、それが怖くて怖くて。小学校の林間学校から。だけど、その世界のことを考えている間だけは、「べつにいいや」って思えた。「寝なくてもべつにいいや」って思えたので。

古川 へー! すごいね。なんかちょっといい話だよ、それ。

赤木 いやいやいや。それをだから、ラブホとかでも考えているわけですよ、わたしは。

古川 ラブホの話はいいから。

妄想ストーリーは昼間はしない

古川 その妄想ストーリーは、寝る前以外の時間にしたりはしないの?

赤木 ないですね。名前を募集したりはしてましたけど、日中にその妄想ストーリーをしたのは1回もないです。

古川 外には持ち出さない?

赤木 はい。電車の中とか、ひとりで考えごとしたりする時にそのことを考えたことは1回もない。そういう意味では確かに入眠の儀式なのかもしれないですけど。

古川 なるほど。

赤木 ただ、お昼寝する時は考えてます。

古川 眠りとセットにはなっているんだけど、でも入眠のためのスイッチOFF行動ではないんだ。

赤木 ないですよね。昼間も考えていたら、たぶんもう、書いている。

古川 ああ、小説としてね。っていうか、なんなら小説として書いてみ?って感じもするけども。

赤木 恥ずかしすぎて、死ぬ。

古川 死ぬ。

赤木 死ですよ、これ。死です。

古川 死ですか。

赤木 っていうか、小説にするには長すぎて。もう終わらせる気もないので。

古川 どこから手を付けていいのやらっていう。

赤木 本当に。っていうか、終わりに向かっていく話でもないので。ずーっといますね。

古川 なんか覚えているストーリーってあります? そもそも典型的なストーリーとか、あったりするの? 「こういうパターンが多い」とか。

赤木 それぞれの彼らの生活があるので……パターンはあんまりないですね。でもそのマゼンタっていう店を中心にしてだいたい事件は起こるので。まあ、みんなそこに集まってきてますね。「集まってきてますね」って意味わかんないんだけど……。

古川 いいですいいです。

赤木 そうですね。医者がいるので、病気になったり死別したりとかはありますね。あと結構、最近は内面の闇みたいなのを考えるのがブームになっていて。たとえば、レズの彼女。

古川 アリアさん。

赤木 他にも、いま名前を出していない人たちで昔、虐待されてたとか。昔はこうだったっていう過去のストーリーを考えるブームが一時ありました。

古川 なるほど。単に誰かと誰かが会って、みたいなことじゃないんですね。

赤木 その人のバックボーンの設定を考えないと、わたしはたぶん物語が考えられないんです。なので、そうですね。こういう人だからこういう言動をする、この人とこの人は全然バックボーンが違うからぶつかる、みたいなことを考えてることが多いです。なぜ敵対するのかにも理由がほしいので。そういうのを考えたりしています。

古川 大河ドラマのシナリオライターみたいなことをやってるね。これ、舞台は街なんですよね。

赤木 街が舞台ですね。

古川 街の名前はあるの?

赤木 ええとね、街の名前はありましたけど、いまパッと思い出せない……ということは、あんまり意識してないんですけど……なんだっけな? クリムゾン・タウンだっけな?

古川 クリムゾン・タウン!

赤木 たしか、そういう名前だった気がする。なんで街の名前をつけたかというと、他の街と抗争をさせるときに街の名前がないとダメだと思って。それで適当につけた気がしますね。

古川 なるほどね。ちなみにこれ、西部劇ということは、ちょっと古い時代なの? 移動は馬とか?

赤木 馬です。交通手段は馬です。携帯とかそういうのは出てこないんです。基本的には会って話すっていう。

古川 ほんとに西部劇の映画のイメージでいいんですね。

赤木 そうですね。時代はあまりおかしくさせないようにしようって思っている節があります。

古川 街の大きさはどのくらいなの? 数千人、それとも数百人ぐらいな感じ?

赤木 数百人規模だと思っています。

古川 じゃあ本当に西部劇で見るあの街の感じだ。賞金首がいて保安官がいて、みたいな。

赤木 そうそう。だからダリアは保安官ですね。保安官だ。そうだ。保安官っていう名前だ。

古川 恋愛模様は?

赤木 恋愛もあるんですけど、そこ、そんなにわたし、あまり重要視していなくて。あるはあるんですけど、そこばっかり考えるのはつまらないので。

古川 あ、そうなんだ。

赤木 だから、誰かがくっついたり別れたり、みたいなのはないです。付かず離れずみたいな。

古川 このストーリーが一晩で完結することはあるんですか?

赤木 あります。自分でもバカらしいなと思ったのは、面倒くさい部分を考えなきゃいけないことってあるんですね。このお話を早く進めたいんだけど、整合性が合わないから、シーンとシーンの間の説明パートみたいなのを考えなきゃいけなくて……。そういう時はすっごい勢いで一晩で終わらせます。「オーケー、こういうことにしよう!」みたいな時はあります。

古川 「ここは段取りだから」って。

赤木 そう。段取りは早めに。

古川 チャチャッと済まそうと。

赤木 ただ、そこを飛ばして行くことはしたくないっていうのはあるんですよ。なんか、納得がいかなくて。

古川 フフフ……マジメ!

赤木 ハハハハ!

古川 どうとでもすりゃいいのにね。

赤木 なんか、ずっと考えているので、整合性が合わないのはイヤなんですよね。

古川 ああ、その世界の中の流れもあるし、思い入れもあるから。ええ〜っ、めっちゃいい〜〜!

赤木 お恥ずかしい……。でも久しぶりに話していて思い出しました。ここ何ヶ月かストップしていたので。

古川 じゃあ、久々に会いに行ってやってくださいよ。



妄想ストーリーは現実の問題を一度切り離して考えるため

古川 これって学生の頃は毎日やっていたんですか?

赤木 そうです。毎日。社会人になってからはさすがにまったく考えないこともありますけど、でも小学生、中学生の頃は本当に毎日だったと思います。

古川 全然別の世界、別のキャラクター、別のストーリーをふたつみっつストックして、それをグルグル巡回する、みたいなことはなかったんですか?

赤木 それはないですね。全部ここに収容しちゃってます。

古川 クリムゾン・タウン・サーガの中に?

赤木 そう。新しい世界を走らせるのがただ面倒くさいというか。最後まで考えないと気が済まないんで、新しく最初から構築するのがちょっと……一時期、同性愛に関して自分なりに問題意識があって。女子校だったこともあって、女子に告白されたりして、「これはどういうことなんだろう?」って悩んだことがあったんですね。そういうときもこの中で考えてました。

古川 なるほど。もともとクリムゾン・タウンは自分の現実が投射されるような場所でもあったし。

赤木 そういうことだったかもしれないですね。いまはじめて、話をしていて思いましたけど。なんで深刻な話が多かったのかな?って考えたら、たぶんそういうことだったのかなと。

古川 当時はあまり自覚がなかったんですね。

赤木 そうですね。同じ人間の考えることなんで、思考パターンが似てるというか、自分の関心事が反映されるっていうのに違和感がなかったんですよね。でもたしかに、自分がまったく出てこないところで相手の気持ちを知るために真剣に考えていたこともあったかもしれないですね。「逆の立場だとどう思うんだろう?」って。

古川 なるほど。問題を一回自分から切り離して、相手の気持ちもちゃんと考えられる場所に置いてみて、と。

赤木 そうですね。「なんでこの親はこの子のことを捨てたんだろう?」って思ったときに、「親にもその理由があったはずだ」と思って、その親のバックボーンも考えたりとかしていましたね。自分なりに納得したかったのかな?

古川 そういうことなんでしょうね。

赤木 だからこそ、あんまり恋愛が出てこないのかな。それよりは、悩んだりとか人間関係みたいな話が結構多かったですね。

古川 へぇ。

赤木 設定上、開拓時代なので派手にドンパチだけやる時みたいなのもあるんですけども、主人公の気持ちみたいなものを考えたりする話が多かったですね。

古川 派手なドンパチの方は、逆にどうなっているんですか?

赤木 主に隣町と抗争というか……お互い領土を広げよう、開拓しようとしているので、抗争をしているんですけども。隣町とは結構派手にやり合ったりしていますね。

古川 そういう回はキャラクターの心情というよりは戦闘シーンメインで?

赤木 それはそうですね。

古川 アクション?

赤木 なんか一時、海賊が……昔ですよ? 昔、海賊の持っているピストルとか武器にすっごい興味を持った時期があって。だからそういうのを考えるのが好きな時期があったんですよ。そういう時はすっごいドンパチばっかりやっていました。

古川 フフフ……振り幅!

赤木 乗り物をひたすら考えたい時期もあって。乗り物っていうか、馬でしたけど。馬のサイドストーリーとかもあるんで。

古川 旺盛ですね!

赤木 ジョゼの乗っている馬が、ディキシーって言うんですけど、暴れ馬で、ジョゼ以外乗せないんですけど。

古川 ああ、いいね。そういう設定いいね。

赤木 なぜかダリアだけは乗せるっていう設定で。

古川 彼や彼女たちは子供が生まれたりとかはしていないんですか?

赤木 ええと、ニーナが1回、ギルの子供を堕ろしているんですけど。

古川 ああ、それは結構ヘビーな……なるほど。元婚約者だからね。

赤木 そうです。でも、子供はまだ出てこないですね。それは単純に自分に子供がいないから、そこを想像できないんですよ。

古川 ああ、なるほど。

夢は夢でちゃんと見る

古川 いやー、すごい。事前に想像してたのより全然すごかったわ。

赤木 恥ずかしいわ〜……。

古川 「よく話すな」って思いながら聞いているからね。

赤木 本当ですよ。でも、ここで照れていてもしょうがないでしょう。

古川 フフフ……つってもね、この間たまたま、3年ぶりぐらいに会った先輩に「昼飯を食いに行きましょう」ってお店に入って、食事が来る前になんとはなしにこの話をしたらね。その人、もう50才とかなんだけど、特撮ヒーローとかおもちゃが大好きで、「ぼくがやっている妄想はね、この変形ロボが部屋から出ていくまでのストーリーを毎日考えているんだよ」って喋り出して。会って2分ぐらいで。全然恥ずかしいと思わない人もいるんだなぁって、目からウロコだった。

赤木 もう問わず語りで。

古川 そう。枕元に変形する小さな戦車のロボットがいて、それが自分の意志を持っていて、外に出かけようとするんだって。でもちっちゃいロボットだから、ドアをどうやって開けるのか? とか、外に出て階段をどう降りるんだ? とか、そういう困難を乗り越えていくのを考えていて、だいたいポストの外に出たあたりで寝てるって。

赤木 めっちゃおもしろい!

古川 すごいスピードでその話をし始めたから、「話はやっ!」って思って。

赤木 なにがヤバいって、恥ずかしいと思っていないところですかね。

古川 そうそう。「この話、載せていいですか?」っつったら、「いいよ!」って言ってた。

赤木 でしょうね。

古川 そうそうそう。全然大丈夫なのよ。

赤木 いやー、めっちゃ恥ずかしいけどね……。恥ずかしいっていうか、「このことを人に話す日が来るなんて」って思いました。だって、聞かれないと話さないし、聞きたい人もいないじゃないですか、普通。

古川 なかなか雑談のテーマにならないんですよ。「寝る時の妄想、なにしてる?」なんて。

赤木 でも、わたしの想像なんですけど、だいたい女子は好きな人のことを考えたりとか、少女マンガ的なイケメンに……みたいなのをよく妄想するんじゃないのかな?

古川 オレの予想では、おそらく女子は寝る前に好きな男の人とか、少女マンガみたいなこと考えてばっかりじゃないと思いますよ。

赤木 あ、そうですか?

古川 なんとなくだけどね。そんな気がする。それこそ結構自由な妄想ストーリーをしている人もいるはず……ただ、この巨大さ。質、量。これはなかなかいないと思います。

赤木 もう20年ぐらいあっためてますからね。あっためてるわけじゃないんですけど。

古川 揺るぎないこの世界観。クリムゾン・タウン・サーガがあるわけですから。デカいですよ。

赤木 そうなんですよね。

古川 しかも、これが儀式化されているわけじゃないっていうのが特殊かもしれないですね。脳が疲れ果てるまでこれをやっているわけだからね。

赤木 本当にそうですね。脳がストップするまでやってますし、このことが夢に出てきたことも1回もないです。

古川 あ、夢の中に出てこないんだ。

赤木 1回も出てきたことないですね。

古川 夢は見るほう?

赤木 見ます。めっちゃ見ます。

古川 えっ。じゃあもう二本立てみたいな感じじゃん。

赤木 そう。本当にそうです。

「引き揚げ兵のわたしが……」

赤木 わたし結構、人の夢の話を聞くのが大好きで。

古川 ほほう。

赤木 「昨日おもしろい夢を見てさ……」って言われたら、もう……「ちょうだいちょうだい!」なんですけども。

古川 夢の話って支離滅裂すぎてつまんないっていう人、少なくないですけど、あなたはもう、くれくれ、と。

赤木 その人の深層心理じゃないですけど。「面白いこと考えるな!」っていうのが見えてとても楽しいです。そしてそれを自分の中で聞いて映像化するのも楽しい。「これこれこういう感じでさ……」「えっ、それはどういう景色なの?」って、その人の夢を映像化して想像するのが楽しい。

古川 はじめて聞いたな、そんな人。

赤木 わたしはそうなんですけど、でも人の夢って聞いていて退屈だったって人多いじゃないですか。だから自分の夢のことはあんまり話す機会がなくて。なので一時、バッと起きてメモってました。夢の内容を。

古川 夢日記的なやつだ。

赤木 そうですね。面白いから。「なんでこんなこと、考えるんだ?」っていう。最近も特にすごいのありましたよ。

古川 差し支えない範囲で教えていただけませんか。

赤木 それは、あの、わたしが引き揚げ兵なんですよ。

古川 またすごいスタートラインですね。

赤木 戦後の男性なんです。自分が。で、引き揚げてきたんですね。たぶんロシアとかから。で、わたしはひとりなんですけど、もともと弟がいる設定で、戦時中にじいやが家を守ってくれていたんですけど、わたしが引き揚げ兵として帰ってきたら、じいやに「なんで弟じゃなかったんだ?」みたいなことを言われて……。「わたしってじいやに嫌われていたんだな」って……。

古川 ハハハ!

赤木 ……って思いながら、ヤミ米の配給みたいなのに並んでいる夢。

古川 何インスパイアなの?

赤木 全然わかんないです。でもひとつあるとしたら、今年わたし、獅子文六にハマりまくって、めっちゃ読んでいたんですよ。そのへんの時代の雰囲気なのかなって思ったんですけども……。

古川 でも夢って客観的じゃなくて、やっぱり主人公になるじゃない?

赤木 そうですね。

古川 ならやっぱり、妄想ストーリーとは語り口のスタイルが違うんだね。

赤木 全然違いますね。ただわたし、夢の中でもよく性別とか年齢が全然違うことが多いんですよ。外国の男性だったりとか、すでに孫がいたりとか。現在の自分の境遇とはまったく違うことが多いですね。本当に現実逃避っぽいというか。

古川 この連載は基本、夢の話は扱わないようにしているんですよ。というのも、あまりにとりとめのない話が続くし、先行の研究もたくさんあるから。でもあなたの場合、寝る前の妄想ストーリーと対にしてみるとちょっと面白いですね。

赤木 ああ、そうかもしれませんね。



いくらでも暇つぶしできるので大丈夫

古川 この妄想ストーリーはこの先もずっと続いていくんですかね? なんでも女性の睡眠って、ホルモンバランスの乱れの影響をモロに受けるらしいので、40代半ばあたりで一回激変するらしいんですよ。不眠に悩まされたり。

赤木 あらこわい! でも大丈夫。わたしにはこれがあるから大丈夫です。

古川 いくらでも暇はつぶせるっていう。

赤木 そうそうそう。それは今回、実感しましたね。

古川 「暇つぶし」っていま流れで言っちゃったけど、実際暇つぶしみたいな感覚ではあるんですか?

赤木 これですか? ああ、そうですね。まったくそうです。寝るまでの、どうやって自分を飽きさせないかという時間潰し。「眠らなきゃいけない」というところからどう自分の意識をずらすかですね。

古川 やっぱり「眠らなきゃいけない」っていうのは大きなプレッシャーですか?

赤木 プレッシャーです。すごく強迫観念があります。「いま何分たったんだろう? まだ全然眠れない。どうしよう、どうしよう……」っていうのは結構昔からずっとあったので。

古川 それから気を逸らすための自己防衛というか。

赤木 そうですね。現実逃避ですね。

古川 それがここまで巨大かつ多彩な……。

赤木 どんだけ暇だったんだっていう。

古川 だって時間あるもんね。毎日1、2時間やってりゃあそりゃあデカくもなるでしょう。

赤木 あと、やっぱり勉強のこととか仕事のことを考えるのはイヤなんで。

古川 まったく違うチャンネルに切り替えるんだね。こじつけかもしれないけど、あなた、小説好きじゃないですか? それともどこかで関係している気がしますよ。つまり、日常の仕事だったり家事だったり、そういうよしなしごとから少し離れる時間として、言っちゃえば自分が作者も兼ねている読書というか。

赤木 ああ、そういうものなのかもしれないですね。もしかしたら。

古川 いやあ、めちゃくちゃおもしろいよ、あなた。こういう話、旦那さんとしないの?

赤木 まったくしていない。だってだいたい旦那が先に寝ちゃうので。

古川 はいはい。

赤木 ていうか、同性も異性も全員先に寝るので。いつもわたしが最後なので。

古川 取り残される側なんだね、いつも。

赤木 ええ。旦那も「おやすみ」って言ってから、本当に2分ぐらいで寝息が聞こえてきますからね。本当にうらやましいです。「いやあ、いいな!」って思います。人生、得していると思います。あれ、本当に。

古川 でもまあ、眠れないときにお酒に走ったりせず、妄想ストーリーを考えるのだって、これはこれでまたいいじゃないですか。豊かな気がしますよ。

赤木 大丈夫ですかね? 逆にアブないかもしれないですよ。

古川 自分で勝手に脳内麻薬を生成しているとも言える。

赤木 相当アブないですよ。

古川 いや、全然大丈夫でしょう。

赤木 大丈夫ですかね。

古川 大丈夫だし、めっちゃおもしろい!

赤木 ほんとにすいません……ヤバッ!

まとめ

今回の会話で幾度となく登場する「妄想ストーリー」という単語。

これを単なる「妄想」とはっきり区別しておくべき理由は、後者が主観的かつストレートに自分の欲望を充足させるものなのに対し、前者はその妄想世界に自らを登場させず、客観的立場でキャラクターを操作して何がしかの欲求を満たすという、一段面倒くさい手続きを踏んでいるからだ。

でも実はこれって、「物語」の原始的なカタチなんじゃないの? 他者のために物語るのではなく、自分のために物語るストーリー。もっと言えば、自分の中にも他者は存在し、その「内なる他者」に向かって語り紡ぐことで、外の世界で起こったできごとを自分なりに処理する、というような。

こう考えてみると、彼女が5歳のときから続けてきた妄想ストーリーもまた、人類のささやかなる“エアポケット的叡智”とでも呼べるものだったと思えてくるのです。

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古川 耕
1973年生まれ。フリーライター、放送作家。「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」「ジェーン・スー 生活は踊る」(共にTBSラジオ)などの構成を担当。アニメーションやコミック、HIPHOP、文房具について執筆。年に一度のボールペン人気投票「OKB48選抜総選挙」主宰。人が眠りにつく過程を必要以上に細かく聞き取っていく「入眠調査」を密かな趣味とする。詩人でデザイナーの小林大吾と制作ユニット「四〇四号室」を主宰。
「四〇四号室」 

ロゴ&イラストレーション:小林大吾

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クリムゾン・タウン。今夜夢に出てきそうだ。

更新日:2017年11月24日 書いた人:古川耕

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