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この連載で初の“初対面調査”である。

また同時に、ジャズピアニストの西山瞳さんは、初めて応募フォームからコンタクトを取った人でもある(応募フォームはページの下の方にあります)。

実は西山さんのことは以前から知っていた。筆者が放送作家をつとめているラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」で、この連載の前身とも言える入眠特集をしたことがあるのだが、そこでガチな入眠方法をメールしてきてくれたのが西山さんだったのだ。

そのメールはもはや“西山メソッド”と呼ぶにふさわしい完成された方法論となっており、こいつはやべぇ、いつか会って直接調査しなくては、と要注意人物リスト(いい意味で)の上位にその名が刻まれていたのである。

そして今回、満を持しての初対面調査。待ち合わせの喫茶店に颯爽と現れたのは、知的な雰囲気をまとった大変素敵な女性であり、「(マズイ!)」と思わず尻尾をしゅーんと巻き上げそうになったものの、挨拶してものの数秒で、「(あ、大丈夫!)」となったのである。

詳しくは本文をどうぞ。

ちなみに同席しているのはTBSラジオのヘヴィリスナーなら『菊地成孔の粋な夜電波』でお馴染み、「バーテンダー見習いベーアー」こと、西山さんの所属する「Apollo Sounds」レーベルオーナー阿部淳氏である。

入眠調査室室長:古川 耕

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入眠調査 FILE:06
意識高い眠りの人(後編)

調査対象
西山瞳(ジャズピアニスト)」さん

1979年生まれ、大阪府出身、ジャズピアニスト。横濱ジャズプロムナード2005コンペティション優勝。インターナショナル・ソングライティング・コンペティション2009(アメリカ)ジャズ部門3位受賞。これまでに16作品のCDをリリース。ヘヴィメタルの名曲をピアノトリオでカヴァーした2015年発表CD『NEW HERITAGE OF REAL HEAVY METAL』が、ロングセラー中。全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。

睡眠問診票

平均睡眠時間 : 6時間~7時間
寝るときの服 : 夏は綿のTシャツと綿のステテコ/冬は上下綿の肌着を着てフリース素材のパジャマ、絹の五本指ソックス
ベッドor布団 : 布団
寝るときの部屋の明るさ : ぐっすり眠りたい時はアイマスクをするので、部屋が明るくても特に気になりません。
寝る前に必ずすること : スマホで目覚しアラームを二重にセット。同時に体内時計の起床時間もセットするのか、アラームの鳴る5分前には起きてしまいます。
睡眠とは? : 集中力をキープするために、また、次の日の身体が快適に動くようにするために、身体を整えるとても大事な時間。

前編はこちら

西山 わたし、ピアノ弾きながら寝たりもできますしね。

古川 えっ?

西山 もちろんライブ中にはしないですけど。なんか本当にどうでもいいような時やったら、弾きながら寝てたりすることありましたよ。

古川 えっ、そんなことできるんですか?

西山 できます。

古川 ええ~……。それは眠いときに限ってですか?

西山 そうです。昔ですけどね。音大の歌科の伴奏とか、そういう仕事をしていた時があって。そうしたら1時間半ずっと「Let It Be」の伴奏をしないといけないんですよ。こうなるともう、自分で自分に催眠術をかけているみたいな感じになって。

古川 ああ。それはたしかに眠くなりそうですね。

西山 同じパルスをずっと刻んでいると、勝手に寝ているっていうことはよくありましたよ。

古川 その時は演奏は……?

西山 手はちゃんと動いてます。

古川 すごい! 手は動いている。演奏はじゃあ成立してるんですね?

西山 止まってはいないです。成立しているかどうかは知らない。ふふふ……。でも、同じ仕事をしていた先輩はやっぱり、「イントロ始めてそのままエンディングに行っちゃった」とかよく言ってましたし。やっぱりみんな同じように眠くなるんやと思います。

古川 へぇ~……眠くなる時あるんだ。

西山 (隣の阿部氏に向かって)わかるでしょう? 演奏中、眠くなるから。

阿部 わかる。意外に出来ちゃいますよね。ずっと同じ曲をやっているから。

西山 そうそう。

阿部 ただ、喋りながらこれをやってて眠るっていうのは、不思議。

古川 ですよね。瞑想みたいなイメージでいたから。

西山 ああ、はいはい。まあ、黙ってるほうが早くは眠れますけど。でも一応、口を動かしながらやりますね。「昨日のセッションでこういうことがあってさー」とか。

古川 って口は動かしながら、頭の中では「(足OFF、指先OFF……)」みたいなことをやっているわけですね。

西山 ああ、でもね。口の方は勝手に喋っているから。たぶん、よく大阪のおばちゃんが「口が勝手にしゃべってんねん」っていうやつと一緒なんで。

古川 フフフ……自動書記みたいな。

西山 そうそう。なんか勝手に口が動いている。夫はもう慣れているんで、仰向けになって静かになっていたら、「ああ、寝たな」って思ってるらしいです。

ツアー先でもやる

古川 それはツアー先とかでもやるんですか? 旅先のホテルとかでも。

西山 はい。旅先でもやるけど、旅先はやっぱり結構アドレナリンが出ちゃってるから、なかなか眠れなくて。ライブのあと、特にいいライブをしたあととかって、ものすっごいアドレナリンが出ているから、寝るのが大変なんですよね。

古川 西山メソッドでもダメ?

西山 旅先でも稀にありますね。耳栓とアイマスクは持っていってるけど、それでも寝られなくて、すっごいイライラします。「これでも寝られへんのか!」と思いながら。でもやっぱり、薄くそのまま寝ていたりもするんですけど。やっぱり眠りが浅くて結局次の日、あんまりよろしくない状態っていうことは結構ありますね。

古川 へ~。それは大変ですね。

西山 でもまあ、ツアー中やったら終わるまでずっとアドレナリンが出ているから、なんとか乗り切れるんですけど。もう少し歳とったら、たぶんしんどいやろなと思います。

古川 普通、布団の中に入ってそれでも寝れないときって、寝返りを何度もうったりとかするじゃないですか。そういうときにはどうしてるんですか?

西山 そうですね。寝返りはなるべく打たないようにしています。寝ようとしているときに。

古川 だってもうOFFにしちゃっているもんっていうことですよね。

寝返りさえ制御したい

西山 そうですね。あと、やっぱり横を向いて寝て、どこか身体に負担がかかったら次の日、しびれていたりとかするじゃないですか。そうやってバランスが悪くなっていると次の日演奏しにくいから。だからなるべく均等になるように、寝返りを打つにしても向きも結構気にしていますね。

古川 ん? 気にして出来るものなんですか?

西山 まあ、起きた時にこっちを向いていたら次こっち向き、とか。そうやって出来るだけちゃんとバランスを取ったりはしていますね。

古川 へー!

西山 ピアノの場合、特にシンメトリーな身体の使い方をするので、身体のどっちかだけって調子悪いっていうのは結構しんどいんですよね。

古川 右と左、どちらかに負荷がかかりすぎないように?

西山 そうですね。夫はテナーサックスをやっているんですけど、そしたら今度は首が固定されるとしんどいから、うまく首のことを考えて寝ていますね。わたしは手とか腕のことを考えているけど。

古川 へぇ~。



勝手に起きてしまう。でも几帳面ではない

西山 あと、問診票にも書きましたけど、わたしちょっと時間ノイローゼみたいなところがあって……。

古川 時間ノイローゼ?

西山 アラームをかけても、必ずその直前に起きちゃうんですよ。「明日は何時に起きないといけない」って思ったら、もうそれで自分の体内時計にスイッチをかけちゃっているみたいで。だから、寝ているといっても、ちょっとどこかで緊張はしているんだと思います。

古川 以前、詳しい方に話を聞いたら、「いちばん強力な目覚ましは自己暗示だ」と仰ってましたよ。

西山 へー!

古川 「何時に起きなきゃいけない」って思って目覚ましをかけたら、もう絶対にその時間に起きるようになるんですって。だからたぶん、その自己暗示が強いんじゃないですか。

西山 それだったら嬉しいな。

古川 寝坊してうっかり遅刻、みたいなことってないんですか?

西山 100%ないですね。

古川 すげえ!

西山 むしろ、起きないといけないと思ったらすっごい早く起きちゃうから。

古川 素晴らしい~。これ、今までの話を総合すると、全般的に几帳面な人なのかなって思っちゃうんですが、そういうことなんですか?

西山 それがそうでもないんです。ふふふ……。

古川 あ、そうなんですか?

西山 連絡事とか時間とか、そういうことに関しては几帳面な方やと思うんですけど。まあでも、バランスを取ってますよ。たぶん共演者はみんな、すっごい大雑把な人間だと思っているはずやから。演奏の中でね。もうある程度のところで「もうどうにでもなれ!」っていうところがわたしにはあるから。

古川 はー。

阿部 たしかにCDの制作に関しては、大雑把っていうんじゃないですけど、わりと踏ん切りは早いですね。2テイク3テイクでもうOKを出すという。

古川 ああ、「あそこが気になるからもう1回。それとあそこが気になるから編集して」っていうことはしない?

西山 そういうことはしないですね。

阿部 少々のミスタッチがあっても全体がよければOKっていう。

西山 直さない。

古川 へぇ~。ああ、面白い。面白いですね。

西山 なのに、時間に対してはすごくわたし、自分でもちょっとノイローゼ気味だなって。強迫観念がすごい。父親がそういう人だったんで、もうそれが身にしみついちゃっているっていうのはありますね。

プロ意識から生まれる睡眠管理

古川 じゃあ寝るのはかなり慎重に寝ているというか?

西山 もう完全に次の日のために寝ている感じですね。

古川 お酒って飲まれます?

西山 多少。浴びるほどは飲まないです。

古川 酔っ払ってわーって寝ちゃうことはないんですか?

西山 前は結構ありましたけどね。でも、やっぱりそうすると次の日しんどいから。

古川 じゃあもう、完全に次の日のパフォーマンスのための休息だ。

西山 そうですね、はい。次の日が休みとかだったら全然飲んでわぁって寝ちゃってもいいんですけど。でも、次の日に演奏があったら、やっぱりちゃんとしてますね。

古川 すごいですね。こんなにプロ意識を持って寝ている人って初めて会いました。

西山 あ、でもたぶんスポーツ選手とかはみんな、もっとちゃんとしてると思います。そういうことやと思いますね。

古川 たしかに。スポーツ選手に聞いたことがないけど、こういう感じで寝ている人もいるんだろうな。ただ、眠りに対する意識もさることながら、そのためのメソッドがすごく面白いですよ。こういう話を他のミュージシャンとかピアニストの間でしたりすること、あります?

西山 ありますね。ちゃんと先生もいますし、あのアレクサンダー・テクニークの先生が良かったよ、というような話もしますし。

古川 睡眠についてもそうやって話すことはあります?

西山 睡眠に関しては特にないかな。

古川 「どうやって寝ている?」みたいな話って、やっぱりしないですか?

西山 それはしないですね。うん。ただ、みなさんストレッチは結構していると思いますよ。

古川 ほうほう。

西山 ストレッチと筋トレは結構やっている人、多いと思います。

寝室のエアコン問題

古川 夏とか冬で寝方に変化はありますか?

西山 夏、暑いのがすごい苦手なんです。なんですけど、夫と結婚していま5年半ぐらいなんですが、エアコンを使わない人っていうのが結婚してからわかって。寝る時に絶対にエアコンを使いたくないっていう人だった。それも快眠のために。筋肉を冷やすと次の日に大変だから絶対にそれをしたくない。でも、わたしはずっとエアコンで寝るのに慣れていたから、どうやって夏を乗り切ろうかをずっと5年ぐらい試行錯誤していて。

古川 あら、それは大変。

西山 でもまあ、エアコンがない方が絶対に筋肉にとってはいいのは確実だけど。ただ、いま練馬に住んでいるんですけども、練馬って暑いんですよね。

古川 そうなんですか?

西山 超暑い! ふふふ……。で、最初の頃はちょっとでも涼しい別室で、アイスノンを首元に敷いて寝ていたら、当たりどころが悪いと次の日にしびれるんですよ。起きれないとか、めまいがするとか。

古川 それはヤバいですね。そこまで行くんだ。

西山 首元の神経をものすごく冷やしちゃうとダメだってことがわかってから、なんですか? い草のマットとか、冷感グッズをいろいろ買って。で、いい扇風機を買って、そこにアイスノンをかけて。それで冷風が来るようにして寝ています。でも、だいぶ暑さに慣れてきたみたいで、もう大丈夫かな?って。

古川 すごい! そうですね。でも、夫婦で寝室が一緒の場合だとそういう問題ありますよね。

西山 快適なものが違うと面倒くさいですね。

古川 基本、じゃあ真っ暗で無音の方がいいっていうことですか?

西山 そうですね。特にカチャカチャするような機械の音とかは耳に付くので「それはやめて」って言いますけど、それ以外の生活音だったら別に問題ないですね。

古川 音楽とかは?

西山 音楽自体、家であんまりかけないですね。やっぱり休みたいから。

古川 ああ、プロのミュージシャンってやっぱりそういうものなんですね。

西山 ジャズミュージシャンで、たとえば移動中になにか適当な音楽をかけるとか、そういうなんとなくBGMをかけることをする人ってほとんどいないと思いますね。

古川 (阿部氏に向かって)他の方もそういうものですか?

阿部 そうだと思いますね。制作の時、研究用にいろいろ聴き込むっていう人は結構いると思いますけど。ていうか、まあ、こちらの方がそうですけど。

西山 そう。聴く時は本気で聴いちゃうから。だからなんかリラックスできない。

古川 声は? たとえば、眠るときにラジオや落語っていう人も結構……。

西山 あ、一時期は(映画評論家の)町山智浩さんの『映画ムダ話』、あれをかけながら寝るっていうのはやってました。あれ、なんで寝れるのかはわからないですけど、なんか寝れてましたね。

古川 はいはい。結構じゃあいろいろと試した上での今なんですね。



アレクサンダー・テクニークで身体が温まる

古川 今の西山メソッドに落ち着いたのはここ数年っていう感じですか?

西山 そうですね。それまでもいろいろな先生に当たっていたんですけど、前回も言ったデビ・アダムスさんのレッスンを受けたら、身体が目覚めたというか。まだまだですけど、なんか体感としてわかった部分があって。それから結構、身体の調子もいいですし。寝る時にもその作業をしたら寝れるっていうのがわかったから、今はあんまり無駄なことをせずにそうしてますね。

古川 へぇ。じゃあ、本当に身体にあってたんですね。

西山 そうですね。ボストンの知り合いのピアニストに、「自分の先生が日本に旅行で行くから見てもらったら?」って、たまたま紹介してもらって。それで受けたら、ちょっと催眠術みたいな感じではあったんですけど。ボディ・マッピングの作業で、別に先生はガイドしてくれるだけで特別何もしていないんですけど、「こうしてこうして……」って身体に道筋をつけてくれる作業で、ものすごく身体があったまったんですよ。

古川 ほうほう。

西山 だからその、リンクをするっていうことがすごくいいことというか、こんなに身体全部を自分がちゃんとわかっているっていう状態になれるんだなっていうのが、すごく体感できて。またレッスンを受けたいんですけど、なかなか日本にはいらっしゃらないから。

古川 ふむふむ。じゃあ一回自分の中に回路ができたんで、そのON/OFFもできるようになったと。

西山 そうですね。でも、たぶん前にレッスンを受けた時よりもちょっとずつ希薄にはなっているとは思うんで。もうちょっと定期的にしていたらもう少しいい感じで寝れるんやとは思いますけどね。

古川 へー。

西山 寝る時のその作業をしている段階で、身体がちょっとだけあったまってくる時があるんですよね。切り離しているのにあったまる感じっていうのがすごく気持ちいいんですよ。

古川 切り離しているのに?

西山 そう。意識は切り離しているけど……。たとえば、冬とかちょっと冷え性気味で。また「冷たいな」って思っていても、その作業をしていたら冷たさを感じないというか。ちゃんとあったかくて、ここにいるけど切り離しているっていうのが、またつながる感じがあるので。でもそれを、中国武術をやっている人に話したら、「気功と同じことをしているよね」って言われて、ああ、なるほどなと。だから、やっぱり太極拳とか気功とか、そういうのに興味がある人もミュージシャンの中でたまにいますけど、同じことなんだろうなというのは思いますね。

古川 ヨガなんかも近いことをやっているんでしょうね。

西山 うんうん。そうでしょうね。

古川 へー。しかし、西山さんは、アレクサンダー・テクニークが土台にあれど、途中から完全に自分で編み出したっていうのがすごいですね。

西山 まあ、いい睡眠を取りたいんですよ。

やっぱり意識高い眠りだった!

西山 明日からちょうどツアーに出るんですけど。ツアー中だと、昼間にリハーサルをちょっとだけしたら、そのあと少し寝られるんですよね。移動とかでみんな疲れてたりもするから、その睡眠の時間も結構大事で。みんなほんの少しでも身体を休めて寝ていたら、パフォーマンスが良くなったりするから。

古川 へぇ、やっぱりそうなんですね。

西山 頭がちょっとクリアになります。パフォーマンスのためにも、ツアーの予定を組むときにはだいたいそういうスケジュールで動いてますね。

古川 そういうちょっとした昼寝でも、この西山メソッドはやるんですか?

西山 やる時もありますし、やらない時もあります。あんまりちゃんと寝ちゃうと筋肉が寝ちゃうから。さっきまで身体があったまっていたのがチャラになっちゃう。だから10分ぐらい、頭を休ませる程度に寝るっていう感じですね。

古川 あ、昼寝っていうより仮眠っていう感じなんですね。

西山 あんまり寝すぎたら、みんな身体がぼんやりしたまま本番の時間になっちゃう。身体がリセットされちゃったらもったいないから。

古川 頭脳労働だったら、多少長めに寝て頭をスッキリさせて、というのはあると思うんですけど、身体も使う仕事だから、寝ててばっかりでもダメっていうことなんですね。

西山 そうですね。

古川 なるほど。身体を使う仕事だからこその睡眠に対する意識の高さっていうことでもあるのかな。

西山 中でもジャズミュージシャンっていうのは大きいと思います。即興演奏をするから、その分、筋肉も頭も柔らかくしておかないといけないっていうのがあって。他のジャンルだったらやることが決まっていて、そこに向けていいコンディションを結びつけるようにすると思うんですけど。でも、なんか、空っぽにしておかないといけないので。そういう状態を作るのがちょっと難しいというか、ちゃんと意識しないとならないですよね。

古川 反射神経と、それをちゃんと身体で表現できるようにしておかないといけない仕事ですもんね。

西山 本当、アイドリング状態です。ずっと。

古川 そう考えると、ジャズの人たちって大変ですね。プロでやるのって。

西山 まあ、それで儲からないですしね。ふふふ……。

阿部 ただ西山さんみたいな人はあんまりいないですよ。若いミュージシャンたちとか、普通にもっとだらしないですよ。ははは。ライブが終わっては飲み、終わっては飲み、みたいな、そんな旅なので。

古川 まあ、僕のイメージするミュージシャンはだいたいそっちですよね。

阿部 西山さんの旅に1回だけついて行ったとき、電車があるうちにスッと帰っちゃうんですよ。だから、やっぱり意識は高いほうだと思います。他のミュージシャンではあんまり聞かない。ただ、女性ミュージシャンできっちりしている人はいますけどね。

西山 特に女性は、うん。ちゃんとしてないと、女性っていうだけでハンデがあるから。筋肉とか体格上、タッパがあってガタイがいい男子と、また違うところがありますからね。だから、ちょっとでもいい状態でいたいしね。

古川 いやー、めちゃめちゃ面白いです。これ、似たような人がいたら、他にも聞いてみたいぐらいだな。

西山 スポーツ選手系のを聞いてみたいですね。

古川 ねえ。そっちですよね。思いつくとしたら。プロのアスリートはひょっとしたらこういう感じかもしれない。

西山 イチローとかものすごい、もうこの比じゃないぐらいの寝方してると思います。

古川 ははは。でも、本当そうでしょうね。アスリートでしょうね。近いのはね。

西山 わたしもこうやって自覚的に、次の日の仕事をちゃんとしないといけないって思ったのって、メジャーでCD出してからですもんね。毎日どこかのジャズクラブでサイドメンで弾いているのと、自分の名前で商売するのとで、だいぶ意識が変わってきたところがあって。その日はじめて来てくれる人に変な演奏はできないなって思ったら、ちゃんとコンディションを整えておかないと失礼だし。

古川 素晴らしいプロ意識。

西山 それはでも、ねえ。やっぱり一期一会だから。その日に体調悪かったとか、寝方が悪かったで済ませられないので。

古川 寝方が悪かった、じゃあね。

西山 そう。それで指が動かへんかった、ってなったら申し訳ないから。

古川 プロ意識から生まれたこの寝方なんですね。やっぱり意識高え!

西山 やったー! 意識高い系!

調査を終えて

西山さんの意識の高さ、伝わっただろうか。かねがね睡眠には「今日の締めくくりとしての睡眠」と「明日の準備としての睡眠」の2種類があると思っていたが、西山さんは完全に後者の睡眠。明日どころか、日々のパフォーマンスを最大化するために入眠の最適解を探り続け、このオリジナルメソッドへと辿り着いた。

こう書くと何やらストイックで禁欲的に聞こえるが、お話していた印象だと、緊張感や堅苦しさは皆無で、むしろそうすることがいろんな意味で自分にとって快いからそうしているだけ、というような素朴ささえ感じた。睡眠を捧げることさえ厭わない、そうしたものを一生の仕事として出会えた者だけが持っている、幸福なストイックさとでも言おうか。

西山さん、初対面なのにいろいろ聞いちゃってすいませんでした。お会いできてよかったです。

【付録】

(西山さんが応募フォームから投稿しようと思ったものの、あまりの長文のために文字数制限に引っかかって投稿できなかった「西山メソッド」。その一部を転載いたします)

仕事柄、毎日身体の一部を局部的に使うので、寝方が悪いと翌日の演奏や練習、全てに支障を来します。
たまに、「横を向いてずっと寝ていて、翌日右肩だけ重い」など身体のバランスが崩れると、翌日かなり困ります。
また、睡眠不足で集中力がなくなることも大問題です。特に即興演奏をするので、演奏の時間は心身共に鋭敏にアイドリング状態にしておかないといけません。
ですので、良質な睡眠、良い姿勢には気を遣っている方だと思います。

「アレクサンダー・テクニーク」をご存知でしょうか?
演奏家やダンサーの中には、これに取り組んでいる人も多いのですが、リラックスしたパフォーマンスができるように、身体の仕組みを理解し、主に頭、首の関係を意識して、身体と脳を繋げるトレーニングをするものです。
そのアレクサンダー・テクニークに関連した作業で、「ボディマッピング」というものがあるのですが、私はピアニストなので、指先を動かすために、骨格や筋肉の構造や機能を理解し、脳からの指示を四肢や末端まで、リンクを良くする作業です。
それを学ぶようになってから、眠る時に、「ボディマッピング」と逆の行為をすることで、気持ち良く眠れるようになりました。頭と四肢のリンクを、切り離すのです。

具体的に手順を書いていきます。

  1. 仰向けに寝ます。どの関節もストレスがかからないように、少し手と足を開いてリラックスできる状態で。
  2. 深呼吸します。仰向けなので、必然的に腹式呼吸になります。自然な呼吸を意識して、呼吸のリズムを掴みます。
  3. 顔の筋肉を、出来る限り緊張を緩めます。顔は、思いのほか、力が入っています。泥人形が溶けていくような絵を想像します。いくらでも筋肉が緩くなっていくので、いかに普段、顔に力が入っているかわかります。
  4. 足の指から、ボディマッピングを解いていきます=意識を切り離していきます。「もうこの足の指は、脳から動けと指令を送っても、動かない」という指令を送ります。足の指が動かせなくなったら、くるぶし、膝、太もも、と、動かせないぞという脳からの指令を、脚の上部まで上げていきます。脳と脚全体をボディマッピングから解いた状態になると、下半身がいうこときかなくなります。
  5. 同じことを、腕で行います。手の指先から、徐々に肩まで上げていきます。
  6. 最終的に、「自分の脳では自分の四肢を動かせない(と思い込んでいる)状態」になり、唯一身体の動きを感じるのは、複式呼吸をしているお腹だけになります。擬似的に金縛りを作るような状態に近く、脳は起きているけれど、身体は休眠に入っている状態です。
  7. このプロセスを丁寧にやれば、6.までに眠っていることが多いのですが、頭が冴えている時は、6.の後に、身体が中空に浮いているのを想像します。または、身体が地面と一体化しているように想像します。

以上の作業は、「ボディマッピング」と全く逆の作業です。

ややこしく書きましたが、自分がエヴァやイェーガー(パシフィックリム)など、神経接続しているマシンに乗っているようにでも思ってもらえれば、と思います。

身体を上手にコントロールするために、身体のしくみを理解することと、その理解をした上で瞑想(精神を集中)をすること、機能的に美しく立ち、機能的に美しく動くことは、武術、ダンス、演劇、楽器の演奏にとって、共通していると思います。

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入眠調査室では、あなたが眠る時にしている「ちょっと変わってるかもしれない儀式」を必要以上に細かく聞き取り調査していきます。「あなたの眠り方」「眠る直前に考えていること」「寝るときの服装や持ち物」など、できるだけ細かく具体的に書いて、応募フォームから送って下さい。調査員から調査依頼が届くかもしれません。よろしくお願いします。


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古川 耕
1973年生まれ。フリーライター、放送作家。「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」「ジェーン・スー 生活は踊る」(共にTBSラジオ)などの構成を担当。アニメーションやコミック、HIPHOP、文房具について執筆。年に一度のボールペン人気投票「OKB48選抜総選挙」主宰。人が眠りにつく過程を必要以上に細かく聞き取っていく「入眠調査」を密かな趣味とする。詩人でデザイナーの小林大吾と制作ユニット「四〇四号室」を主宰。
「四〇四号室」 

ロゴ&イラストレーション:小林大吾

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ピアニストって、ほんとスポーツマンだ!

更新日:2017年7月7日 書いた人:古川耕

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