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世界には、心地よく眠りへ誘う、素晴らしい音楽がたくさんあります。
そんなDreamtime Songs~世界の眠族音楽をブロードキャスターのピーター・バラカンさんがセレクトします。

ピーター・バラカンさんが第8回のDreamtime Songに選んだのは、ノーラ・ジョーンズ(Norah Jones)が2016年に発表したアルバム『Day Breaks』から、「Peace」です。

2003年、アルバム『Come Away With Me』でデビューし、グラミー賞を8部門受賞したノーラ。それから14年、カントリーバンドを組んだり、ピアノをギターに持ち替えたりとさまざまな顔を見せてくれましたが、印象的な声がつくりだす彼女の世界は変わりません。今回の最新作では、そんな彼女のジャズとピアノが久々に堪能できます。

ウェイン・ショーターのサックスも耳に残る今回の「Peace」。この曲とノーラのエピソードをバラカンさんにおききしました。

(取材・文 高橋芳朗)

Day Breaks by Norah Jones

3ヴァージョンある
ノーラ・ジョーンズの「Peace」

ー 今回バラカンさんに選んでいただいたノーラ・ジョーンズの「Peace」はホレス・シルヴァーのカヴァーですね。もともとはインストゥルメンタルで、初出は1959年発表の『Blowin’ The Blues Away』。そのあと、アンディ・ベイをヴォーカルに迎えて1970年の『That Healin’ Feelin’』で再録音しています。

バラカン 僕はノーラ・ジョーンズで初めて聴いた曲で、作曲クレジットでホレス・シルヴァーがオリジナルだと知っていたのですが、彼のヴァージョンを実際に聞いたのがわりと最近でした。だいたい想像していた通りの雰囲気でしたけど。

ノーラの「Peace」は最新アルバムの『Day Breaks』(2016年)にも入ってるけど、僕が最初に聴いたのはもう10年以上前。これはデビュー前に録音したデモみたいなものなのかな? 最近ようやく日本で出た『First Sessions』(2001年)というアルバムで聴くことができます。

ー 『First Sessions』はもともとデビュー直前のノーラ・ジョーンズがライヴ会場などで販売していたアルバムのようですね。

バラカン 当時は「こんな曲があるんだ」と思ってときどき聴いていたぐらいだったんだけど、『Day Breaks』で改めて聴いたらやっぱりよかった。去年の年末に出た『Day Breaks』のデラックス・エディションにはライヴ・ヴァージョンも入っていたから、ノーラの「Peace」は3ヴァージョン存在することになる。


First Sessions

バラカンさんが
ひさびさにときめいた
ノーラのデビュー

ー ノーラ・ジョーンズはその『First Sessions』を経て2002年に『Come Away With Me』で正式にデビューするわけですが、もともとバラカンさんは彼女にどんな印象を持っていましたか?

バラカン ドキドキしました。タイプなんです(笑)。

ー アハハハハ。デビュー当時の彼女、とってもキュートでした。

バラカン ルックスから雰囲気から歌い方から、ぜんぶ好きでしたね。ひさしぶりにときめきましたよ(笑)。

ノーラが初めて来日公演を行ったのは、確か『Come Away With Me』を出した翌年の2003年。国際フォーラムのホールCという小さめの会場でやったんだけど、これがちょうどよかった。彼女の魅力を発揮するのに絶好の規模だったと思います。

ー ノーラのディスコグラフィで特にお気に入りのアルバムを教えていただけますか?

バラカン やっぱり最初の2枚、『Come Away With Me』と『Feels Like Home』(2004年)。あとは最新作の『Day Breaks』が特に好きかな。途中でピアノをやめてほとんどギターを弾いていた時期がありましたが、あのころはさすがにちょっと離れてしまいました。新しいプロデューサーを起用したことで雰囲気も変わって、決して嫌いではなかったけどしょっちゅう聴くような感じでもなかった。

『Day Breaks』ではまた全面的にピアノを弾くようになって、曲自体もすごくよかったですね。

ー 今回の「Peace」をはじめとして、ノーラは渋いカヴァーをよく歌っているイメージがあります。

バラカン そうですね。なかでは『Come Away With Me』に収録の「Turn Me On」がすごく好きです。あの曲はニーナ・シモンがモチーフになっているんだけど(1967年『Silk & Soul』参照)、「Peace」と同じようにノーラの歌で初めて聴いたんですよ。

他ではチャーリー・ハンターと一緒にやったロキシー・ミュージック「More Than This」もいいですね(2001年『Songs from the Analog Playground』収録)。それから、ローリング・ストーンズのツアー・バンドでサックスを吹いてるティム・リースの『The Rolling Stones Project』(2005年)に入ってる「Wild Horses」のカヴァーも素晴らしい。

比較的最近のものでは、この連載の第1回で取り上げたチャールズ・ロイドの『I Long to See You』(2016年)でジョー・コッカーの、というべきか、ビリー・プレストンの「You Are So Beautiful」を歌っていました。

ノーラは自分が
本当にやりたいことを
続けていきたいんでしょう

ー ノーラのカヴァーといえば、グリーン・デイのビリー・ジョー・アームストロングとつくった『Foreverly』(2013年)もありますね。エヴァリー・ブラザーズ『Songs Our Daddy Taught Us』(1958年)をまるごとカヴァーしたアルバムでした。

バラカン あれもいいアルバムですね。ノーラはギターを弾き出したときもファンがあまり喜ばないことを覚悟してやっていたと思うんですけど、なにもかも絶賛されたくて音楽活動をしているような人ではないんだと思います。地味でも構わないから自分が本当にやりたいことを続けていきたいという、そういうタイプのミュージシャンなんでしょうね。

リトル・ウィリーズにしても、自分の名前を伏せて友達同士でやりたいことを勝手にやっていた。セカンド・アルバムの『Feels Like Home』もわざと地味な展開にしていたような節があったし、きっと『Come Away With Me』が世界的に大ヒットしたことで注目されるのが嫌になってしまったんでしょうね。

ー では最後に、ノーラが歌う「Peace」の魅力を改めて聞かせてください。

バラカン YouTubeの公式チャンネルに上がっているライヴ・ヴァージョンがすごくいい。こういうちょっと洒落たジャズ・バラードが大好きなんです。しかも、ジャズ・バラードといっても特にテクニックをひけらかすような曲でもない。ものすごくシンプル。またこれがいまのような寒い季節に合うんですよね。夏の暑いときよりも冬に聴いたほうがしっくりくると思います。

一杯傾けながら聴くのもいいんじゃないかな。この歌い方、夜遅くに閉店間際の小さなバーでアップライトのピアノを弾きながら歌っているようなイメージですね。本人もちびちび飲みながらピアノを弾いてる感じ。もうこの雰囲気からして「それじゃあ皆さん、おやすみなさい」って言いたくなる(笑)。


バラカンさんオススメのライブ・バージョンの「Peace」

ノーラ・ジョーンズ(Norah Jones)
1979年ニューヨーク生まれ、テキサス育ち。ノース・テキサス大学でジャズ・ピアノを専攻。しかし、ひと月だけのつもりで訪れたニューヨークにそのまま在住し、大学にには戻らず、音楽活動を始める。現在はニューヨークに在住。2002年に『Come Away With Me』でメジャーデビュー。ブリット・アワード、グラミー賞などを多数受賞。大ヒットアルバムとなる。以降も精力的に活動を続け、『Day Breaks』はノーラ・ジョーンズ名義での6枚目のアルバムとなる。
日本語公式サイト http://norahjones.jp/

Peter Barakan ピーター・バラカン
1951年ロンドン生まれ。ブロードキャスター。
1980年代から日本のラジオDJ、ブロードキャスターとして古今東西の素晴らしい音楽を紹介。日本の音楽文化を格段に豊かにした功労者のひとりであり、多くの音楽ファンから絶対的な信頼を集めている。books
ロックの英詞を読む 世界を変える歌
ピーター・バラカン著(集英社インターナショナル)

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「オフビート&ジャズ」

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website
peter barakan dot net


取材・文 高橋芳朗

1969年生まれ。東京都港区出身。タワーレコードのフリーペーパー『bounce』~ヒップホップマガジン『blast』の編集を経て、2002年からフリーの音楽ジャーナリストに。エミネム、ジェイ・Z、カニエ・ウェスト、ビースティ・ボーイズらのオフィシャル取材の傍ら、マイケル・ジャクソンや星野源などライナーノーツも多数執筆。共著に『ブラスト公論 誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない』や 『R&B馬鹿リリック大行進~本当はウットリできない海外R&B歌詞の世界~』など。2011年からは活動の場をラジオに広げ、『高橋芳朗 HAPPY SAD』『高橋芳朗 星影JUKEBOX』『ザ・トップ5』(すべてTBSラジオ)などでパーソナリティーを担当。現在はTBSラジオの昼ワイド『ジェーン・スー 生活は踊る』と『都市型生活情報ラジオ 興味R』の選曲も手掛けている。

ジェーン・スー 生活は踊る
都市型生活情報ラジオ 興味R
高橋芳朗(Twitter)


撮影協力
Music bar 45
http://musicbar45.blog.jp/
今回の取材は、東京・渋谷にある音楽好きが集まるバー、「music bar 45」で行いました。

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バックナンバー
世界の眠族音楽 Vol.7:アーレン・ロス
世界の眠族音楽 Vol.6:Stuff
世界の眠族音楽 Vol.5:サント&ジョニー
世界の眠族音楽 Vol.4:リオン・レッドボーン
世界の眠族音楽 Vol.3:チャールズ・ロイド
世界の眠族音楽 Vol.2:ボビー・チャールズ
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