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世界には、心地よく眠りへ誘う、素晴らしい音楽がたくさんあります。
そんなDreamtime Songs~世界の眠族音楽をブロードキャスターのピーター・バラカンさんがセレクトします。

ピーター・バラカンさんが第10回のDreamtime Songに選んだのは「Albatross」。ギタリストのピーター・グリーンを中心にブルーズ・バンドとして活躍していた時代のフリートウッド・マックが1968年に発表したインストゥルメンタル曲で、本国イギリスで1位を記録したほかヨーロッパ各国で大ヒットした、グループの代表曲の一つです。

(取材・文 高橋芳朗)

ピーター・バラカンが選ぶ
世界の眠族音楽
フリートウッド・マック

時代に束縛されない一曲、
「Albatross」

ー 本日の東京は35度を超える酷暑だったこともあって、朝からずっとピーターさん選曲のフリートウッド・マック「Albatross」をリピートしていました。この優雅な清涼感、これがあれば寝苦しい熱帯夜もなんとかしのげそうです。

バラカン ちゃんと波の音まで入ってるからね。「Albatross」を寝るときに流したら、気持ちよすぎて最後まで聴く前に眠ってしまうんじゃないかな(笑)。

ー 作者は素晴らしいギター・プレイを披露しているピーター・グリーン。あまり時代を感じさせない曲ですよね。

バラカン 時代に束縛されない感じの曲だね。シングルが出たのは1968年だからちょうど50年前。当時イギリスのチャートでは1位になってますね。ピーター・グリーンとダニー・カーワンのふたりがいてこその、このダブル・ギターの甘い感じがいいんですよ。

ー オランダでも1位、ノルウェーでは2位を記録したとのことです。ヨーロッパ中でヒットしたんですね。

バラカン ラジオの事情を考えると、イギリスで火がついた曲はヨーロッパでもヒットしやすい状況にあるんです。ツアーもやるし、とにかく近いんですよ。ノルウェーなんてすぐそこですから。

ー 国によってはイギリスのテレビやラジオも受信できるのでしょうか?

バラカン オランダはまちがいなく届いていたでしょうね。ロンドンからだったらスコットランドよりオランダのほうが近いぐらいなので。オランダ、ベルギー、フランス。ルクセンブルグあたりはたいした距離じゃない。ロンドンとパリなんて、いまだったら東京~大阪間を電車で行くのとほとんど変わりませんからね。

ー なるほど、勉強になります。話を「Albatross」に戻しまして、まずはピーター・グリーンとの出会いを教えてください。

神様クラプトンに代わって
現れた無名のギタリスト

バラカン ピーター・グリーンとの出会いは僕が16歳のときだから1967年、ジョン・メイオール&ブルーズブレイカーズのアルバム『A Hard Road』で聴いたのが最初です。

まずはエリック・クラプトンがブルーズブレイカーズに入って、1966年に伝説のアルバム『Blues Breakers with Eric Clapton』が出ます。これはちょっと余談になりますが、あのアルバムのジャケットではクラプトンが『Beano』というコミックを読んでいて、裏ジャケットではギターの弦と弦のあいだにタバコを刺してるんです。少なくとも、アルバムのジャケットでそういうことをやったのは彼が初めてなんじゃないかな。あと、シャツのカフスのボタンをはずしてるんですよ。クラプトンのそういうファッションを僕ら若者は全員真似してたな。あの写真一枚がどれだけ影響を与えたか(笑)。


Blues Breakers with Eric Clapton

Blues Breakers with Eric Clapton 裏ジャケット

ー 音楽面での功績はもちろん、当時の若者たちの風俗にも影響を及ぼしているアルバムなんですね。

バラカン とにかくあのアルバムでクラプトンは神様になってしまったんだけど、でも彼はブルーズブレイカーズはすぐに辞めてクリームを結成することになります。それで、そんな神様になってしまったクラプトンの代わりに新しくブルーズブレイカーズに加入してきたのがピーター・グリーンなんですよ。彼はまったくの新人で、当時は誰も知らなかった。アルバム『A Hard Road』を最初に聴いた印象は、テクニックはあるし悪くはないんだけどあまり個性は感じなかったかな。あきらかにクラプトンの影響を受けているのはわかるんですよ。クラプトンと同じようにフレディ・キングのインストゥルメンタルをカヴァーしていたりして。

ー なかなか厳しい評価ですね(笑)。

バラカン やっぱりクラプトンを神様だと思っていたからね。このころはすでにジミ・ヘンドリックスがデビューしてるから、新しくブルーズ・ギタリストを名乗る人はハードルが高いんですよ。ただ、『A Hard Road』のB面の4曲目に「The Supernatural」というスローのインストゥルメンタルが入ってるんだけど、これが素晴らしかった。僕はこの一曲でピーター・グリーンに参ってしまったね。


The Supernatural

ー それをきっかけに気になる存在になっていったと。

バラカン そうだね。ピーター・グリーンも結局はアルバム一枚に参加しただけでブルーズブレイカーズを脱退します。それでブルーズブレイカーズで一緒だったベースのジョン・マクヴィーとドラムのミック・フリートウッド、それからもうひとりギタリストのジェレミー・スペンサーを加えてフリートウッド・マックを立ち上げる。

当時のフリートウッド・マックはブルーズ・バンドだったんですよ。そのころになるとイギリスはブルーズ・ブームが起きてるから、次々とブルーズ・バンドが結成されるんですけど、はっきり言ってたいしていいバンドがいなかったんです。

僕はブルーズにのめり込んでからすぐにアメリカの黒人のブルーズを聴くようになっていたから、それに比べるとイギリスのブルーズはどうしても見劣りしてしまう。でも、そんななかでフリートウッド・マックはかなりいい線いってましたね。

ジェレミー・スペンサーというギタリストはエルモア・ジェイムズのオタクだったんですよ。彼はエルモアの真似ばかりしていてちょっとつまらなかったんだけど、ピーター・グリーンはギターも素晴らしいし歌もなかなかよかった。

ー ジェレミー・スペンサーに対して、ピーター・グリーンはどんなスタイルのギタリストだったのでしょう?

バラカン どちらかというとB.B.キングの影響が強いと思う。あとはオーティス・ラッシュだったり、単音のビブラートが強くかかったギターを弾くギタリストが好きなんじゃないかな。

近くのパブで演奏していた
最初期の
フリートウッド・マック

ー ピーターさんはご著書の『ぼくが愛するロック名盤240』(講談社+α文庫)でこんなことを書かれています。「イギリスのブルーズ・ブームの火付け役となったのは、クリームやヘンドリックスと見るべきか、それとも意外にこのフリートウッド・マックと見るべきか。あっちこっちのパブや小さいクラブで、安い料金でいつでも楽しめた後者のほうかもしれない」ーーということは、当時フリートウッド・マックのライヴは簡単に見ることができたのでしょうか?


『ぼくが愛するロック名盤240』(講談社+α文庫)

バラカン できました。新しいグループだから誰も知らないんですよ。ブルーズ・ブームといっても、彼らが結成されたあとぐらいから本格的に普及していくわけだからね。チキン・シャックが登場するのもフリートウッド・マックよりちょっと後だし、ジョン・ダマー・ブルーズ・バンドだとかグラウンドホッグズだとか、次々と出てくるんですよ。フリートウッド・マックは僕が住んでいたところの近くにウッド・グリーンという町があって、そこのパブでよく演奏していましたね。確か入場料はタダだった気がする。あのころ、イギリスのパブでライヴをやるときはビールの売り上げで稼いでいたようなものだから。

ー 結成間もないころのフリートウッド・マックのライヴはいかがでしたか?

バラカン よかったです。パブで見ても本物な感じがありましたね。

ー その後、徐々に評判を呼んで人気バンドになっていったと。

バラカン そうですね。最初はブルーズ好きだけに聴かれている印象だったけど、「Albatross」がヒットしたことで一気に全国区のバンドになるわけです。「Albatross」が出たタイミングで新しく入ってきたギターのダニー・カーワンは女の子のような髪型で、まだ十代で中性的な感じだったからきっとモテたんじゃないかな(笑)。ただ、ダニーはアル中になってしまって数年でフリートウッド・マックをクビになります。


Albatross 当時のシングルジャケット

「Albatross」が出たとき
「えーっ。フリートウッド・マックが
こんな曲をつくるの?」
と驚いた。

ー それまでのブルーズ・バンド然としたイメージからすると、さわやかな「Albatross」が出たときは戸惑いもあったのではないでしょうか?

バラカン すごくメロディックでゆったりした感じで、ブルーズ・バンドという感じがまったくなかったですからね。「えーっ。フリートウッド・マックがこんな曲をつくるの?」って驚いたけど、あまりにも気持ちがいい曲だったから誰も抵抗できなかったんだと思う(笑)。イギリスでは夏のヒット曲というのが昔から毎年のようにあったんですよ。他の季節だったら売れないような曲が、夏に出たからヒットするようなことはよくあるんです。1970年にヒットしたマンゴー・ジェリーの「In The Summertime」はその典型ですね。

ー 「Albatross」は以前に当連載で取り上げたサント & ジョニーの1959年のヒット曲「Sleep Walk」に通ずる良さもあると思いました。

バラカン 確かに似てますよね。僕も今回「Albtross」を選んだとき、これはちょっと「Sleep Walk」に近いかなと思いました。

ー ビートルズのジョージ・ハリスンが『Abbey Road』(1969年)収録の「Sun King」をつくるにあたって「Albatross」から影響を受けたことを公言しているのも有名ですよね。では最後に、ピーターさんおすすめのピーター・グリーンの名演をいくつか挙げていただけますか?

バラカン さっき話したブルーズブレイカーズ時代の「The Supernatural」はすごく好き。あと、当時「Need Your Love So Bad」のシングルのB面に入っていた「Stop Messin’ Round」。このシングルのヴァージョンはホーン・セクションが入っていて徐々に盛り上がっていくんだけど、ピーター・グリーンのギター・ソロがめちゃくちゃかっこいい。あとはアフリカン・アメリカンのブルーズ・ピアニスト、エディ・ボイドが1968年にヨーロッパに移住してつくったアルバム『7936 South Rhodes』。実はこのバックを務めてるのがフリートウッド・マックのメンバーなんですよ。ピーター・グリーンはここでもすごくいい演奏をしていますね。


7936 South Rhodes

ー おー、これは良さそうですね。さっそくチェックしてみます! 本日はありがとうございました!

フリートウッド・マック(Fleetwood Mac)
1967年にロンドンで結成されたロックバンド。ピーター・グリーン(ギター)、ミック・フリートウッド(ドラムス)、ボブ・ブランニング(ベース)、ジェレミー・スペンサー(ギター)で結成。ブルーズ・ロックで人気を博した。ベースがジョン・マクヴィーに交代、ダニー・カーワン(ギター)が加入してトリプルギター体制となった1968年、シングル「Albatross」を発表。シングルチャートで全英1位になる。その後もメンバーチェンジを繰り返し、音楽性もよりポップになっていく。活動拠点をアメリカに移し、1977年、11作目に発表したアルバム『噂』は大ヒットした。2018年の現在も活動中。
公式サイト https://www.fleetwoodmac.com (英語)

スタッフからのオススメDreamtime Songs

ピーターさんへの取材には、高橋芳明さんをはじめ、スタッフ一同も自分が思う快眠にピッタリの曲を持ちよっています。今回は夏真っ盛りにピッタリの曲が集まりました。ぜひ聞いてみてください。

高橋 芳朗 (音楽ジャーナリスト)

Chuck Berry – Blues for Hawaiians

フリートウッド・マック「Albatross」とサント&ジョニー「Sleep Walk」の類似性については本文中で触れている通りですが、他にもチャック・ベリーの1957年作「Deep Feeling」との共通点について指摘する声もあるようです。そんなわけで今回はその「Deep Feeling」を取り上げてみようかとも思ったのですが、ここはあえてタイトルも涼しげなベリーの別のインストゥルメンタル「Blues for Hawaiians」を。

映画『Hail! Hail! Rock ‘n’ Roll』のエンド・クレジットでベリーがスティール・ギターを駆使して披露していた曲、といえば記憶されている方も多いのではないでしょうか。眠気を誘うこの絶妙な枯れ具合、すぎゆく夏の眠族音楽としてぜひ。

小山雅徳(Dreamtime Songs スタッフ)

新崎純とナイン・シープス – かじゃでぃ風節

今年の夏に出会った素晴らしい音楽をご紹介します。

下北沢のELLA RECORDさんで、店員さんがかけていたこのレコードを偶然耳にしてこれは、むむむ!びびび!ときてしまいました。
あきらかに沖縄の旋律なんだけれど、新しくもあり古い音源のようでもある。陳腐な表現だが、その音はゆったりと流れる大河の上を爽やかな風がそよいでいるようにも感じた。調べてみたら、沖縄ではお祝い事では必ず演奏される有名な琉球古典音楽・琉球舞踊「かじゃでぃ風節」でした。

通常は少人数の三線(さんしん)奏者で演奏されるこの曲を新崎純さんという音楽家が1977年に総勢13人のビッグバンド編成で取り組んだ意欲作です。三線と洋風な楽器のミックス具合が素晴らしい音響効果を産み出し、あの世とこの世をいったりきたりできるかのような浮遊感あふれる魅惑的なサウンドとなっています。寝苦しい真夏の夜でもこの曲があれば、安らかな気持ちのまま眠りにつけること請け合いです。

*グループ名はナイン・シープスだけど羊を9匹数える前にぐっすりいけるかも・・・・・・・

AKISUKE(世界睡眠会議 編集部)

CALVIN KEYS – SHAWN NEEQ

まどろむような心地良い楽曲は、様々なジャンルにありますが、僕はジャズから1枚をピックアップ。
ギタリストCALVIN KEYSによる『SHAWN NEEQ』というアルバムのタイトル曲です。

暖かく丸みのあるトーンのギターに、エレクトリックピアノとフルートが絡むその穏やかなサウンドは、蒸し蒸しした寝苦しい夜にも、涼やかに響くことでしょう。

三浦 敦(世界睡眠会議 編集部)

Ry Cooder – Chloe

まだまだ暑いのに、ちょっとした風やセミの鳴き声に夏の終わりを感じる頃にこんな曲はいかがでしょうか。
もうひとりのギターの達人、ライ・クーダーの「Chloe」です。
この曲が入っているアルバム「Chicken Skin Music」にはメキシコのアコーディオン奏者、フラーコ・ヒメネスや、ハワイのスラック・キー・ギターの名手、ギャビー・パヒヌイも参加していて南国の夕暮れ気分が満喫できます。
古いジャズナンバーをギャビーと一緒に演奏したこの曲は聞いているだけで余分な力が抜けて肩こりがほぐれていくような気分になります。快眠のお供にぜひ!

Peter Barakan ピーター・バラカン
1951年ロンドン生まれ。ブロードキャスター。
1980年代から日本のラジオDJ、ブロードキャスターとして古今東西の素晴らしい音楽を紹介。日本の音楽文化を格段に豊かにした功労者のひとりであり、多くの音楽ファンから絶対的な信頼を集めている。

books
ロックの英詞を読む 世界を変える歌
ピーター・バラカン著(集英社インターナショナル)

radio
Barakan Beat
「バラカン・ビート」

interFM /Sunday6.00-8.00pm
Weekend Sunshine
「ウィークエンド・サンシャイン」

NHK-FM/Saturday7.20-9.00am
Lifestyle Museum
「ライフスタイル・ミュージアム」

TokyoFM/Friday6.30-7.00pm

tv
Japanology plus
「ジャパノロジー・プラス」

NHKBS(in Japan) Tuesday3.00-3.30am
Offbeat&jazz
「オフビート&ジャズ」

WOWOW/check for dates and times

website 
peter barakan dot net


取材・文 高橋芳朗

1969年生まれ。東京都港区出身。タワーレコードのフリーペーパー『bounce』~ヒップホップマガジン『blast』の編集を経て、2002年からフリーの音楽ジャーナリストに。エミネム、ジェイ・Z、カニエ・ウェスト、ビースティ・ボーイズらのオフィシャル取材の傍ら、マイケル・ジャクソンや星野源などライナーノーツも多数執筆。共著に『ブラスト公論 誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない』や 『R&B馬鹿リリック大行進~本当はウットリできない海外R&B歌詞の世界~』など。2011年からは活動の場をラジオに広げ、『高橋芳朗 HAPPY SAD』『高橋芳朗 星影JUKEBOX』『ザ・トップ5』(すべてTBSラジオ)などでパーソナリティーを担当。現在はTBSラジオの昼ワイド『ジェーン・スー 生活は踊る』の選曲も手掛けている。

ジェーン・スー 生活は踊る
都市型生活情報ラジオ 興味R
高橋芳朗(Twitter)


小山雅徳(DREAMTIME SONGS スタッフ)
なによりレコードが大好き。音楽を通していろんな人やいろんな事との出会いを楽しんでいます。ピーターさんには30年くらい前からお世話になりっぱなしです。毎月第四水曜日渋谷BARMUSICにてDJイベント「バミューダ・トライアングル」を共催。インスタグラムやってます。(こやままさのりneedletime1963)

AKISUKE(世界睡眠会議 編集部)
広告会社で仕事をしつつ、音楽執筆(JAZZ NEXT STANDARD、ムジカ・ロコムンド etc)やイベント(BERMUDA TRIANGLE@BAR MUSIC、SECRET RISORT@CAY etc)などの活動も。

三浦 敦(世界睡眠会議 編集部)
編集部からもレコード好きの担当者がエントリー。取材のたびにピーターさん、高橋さん、小山さん、Akisukeさんの恐るべき音楽知識と曲の蓄積に触れて勉強中です。


撮影協力
Music bar 45
http://musicbar45.blog.jp/
今回の取材は、東京・渋谷にある音楽好きが集まるバー、「music bar 45」で行いました。

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バックナンバー
世界の眠族音楽 Vol.9:J.J.ケイル
世界の眠族音楽 Vol.8:ノーラ・ジョーンズ
世界の眠族音楽 Vol.7:アーレン・ロス
世界の眠族音楽 Vol.6:Stuff
世界の眠族音楽 Vol.5:サント&ジョニー
世界の眠族音楽 Vol.4:リオン・レッドボーン
世界の眠族音楽 Vol.3:チャールズ・ロイド
世界の眠族音楽 Vol.2:ボビー・チャールズ
世界の眠族音楽 Vol.1:ピンク・フロイド

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