世界の眠族音楽 タイトル
世界の眠族音楽
 
世界には、心地よく眠りへ誘う、素晴らしい音楽がたくさんあります。
そんなDreamtime Songs~世界の眠族音楽をブロードキャスターのピーター・バラカンさんがセレクトします。

(取材・文 高橋芳朗)

ピーター・バラカンが選ぶ
世界の眠族音楽
ユセフ・ラティーフ

僕はフルートがめちゃくちゃ好きなんですよ

ー 今回バラカンさんに選んでいただいた眠族音楽は、ユセフ・ラティーフの「The Plum Blossom」。タイトルにある通り、東洋思想を打ち出した1961年発表の『Eastern Sounds』収録曲です。いまバラカンさん持参のCDをかけてもらっていますが、とても和みますね。


ユセフ・ラティーフ Eastern Sounds

バラカン これはフルートですね。オーボエも使っているんでしたっけ?

ー ユセフ・ラティーフは変わった楽器を使うことで有名です。

バラカン そうですね。多分、この当時ジャズでオーボエを使っていたのは彼しかいないでしょう。以前、映像でオカリナをもっと丸くしたような中国の楽器を吹いているのを見たことがあります。

ー タイトルの「The Plum Blossom」は梅のことですが、この曲を今回の眠族音楽として選んだのはタイトルにちなんだものですか?

バラカン 季節のこともあるかもしれないけど、なぜかこの曲が頭に浮かんできたんですよ。ちょうど今日、出かけるときに家の近くの神社を通ったら梅の花がきれいに咲いていました。

ー タイトルが春を予感させるのはもちろんですが、こうして聴いていると曲調も春にぴったりですね。これは気持ちよく眠りにつけそうです。バラカンさんの「The Plum Blossom」の第一印象を教えてください。

バラカン モーダルで聴きやすいし、このフルートの音色を聴いているととにかく落ち着く。僕はフルートがめちゃくちゃ好きなんですよ。
クラシック以外で最初に聴いたフルートが入った曲はなんだろう? メル・コリンズがキング・クリムゾンに参加する前にいたサーカスというグループがサニー・ロリンズの「St. Thomas」をカヴァーしていますが、サックスではなくフルートで吹いてるんですよ。これがすごくかっこいい。その少し前にはジェスロ・タルがデビュー・アルバム『This Was』でローランド・カークの「Serenade to a Cuckoo」をカヴァーしていました。その曲は一時期毎日聞きまくっていましたね。


ジェスロ・タル This Was

ー バラカンさんはジェスロ・タルもお好きなんですね。

バラカン デビュー・アルバムの『This Was』は大好き。その次の『Stand Up』もそこそこ好きです。「フルートってこんなにかっこいい楽器なんだ!」と思ってね。
イアン・アンダスンがオーヴァー・ブローするとフルートが歪んだ音になるんですけど、歪んだフルートなんて聴いたことがなかったから衝撃でした。やっぱりフルートはクラシックの楽器という印象があったから、ロックでフルートを吹くとこんなにかっこよくなるんだって。まだジャズをほとんど知らないころだったので、ハービー・マンも聴いてなかったんじゃないかな。

そのジャンルだけに完全にハマることなく、何か他のものとまたがっているような音楽が好き

ー ユセフ・ラティーフを初めて聴いたのはいつごろですか?

バラカン 多分、レコードを聴く前に映像で見たんだと思います。ユセフが一時期キャノンボール・アダリーのグループにいたことがあって、その映像を見たのかな。キャノンボールはすごく体が大きいと思っていたんだけど、彼の隣にいるユセフのほうが更に背が高くてびっくりしました。

ー あの風貌で背が高いとなると威圧感ありそうですね。その映像を見たあと、実際にアルバムを購入したと。

バラカン 初めて買ったアルバムはまさにこの『Eastern Sounds』だと思う。なぜこれにしたのかはよく覚えていないんですけど、きっとジャケットかタイトルに惹かれたんでしょうね。
とにかく「The Plum Blossom」がすごく良かった。ちなみにこの曲、ジャイルズ・ピーターソンがブラジルで作ったアルバム『Sonzeira』の日本盤のボーナス・トラックとしてこの曲のカヴァーが入っていますよ。さすが、いいところに目をつけるなと思いました。

ー 最初に『Eastern Sounds』を聴いたときのことは覚えていますか?

バラカン 僕はどんなジャンルの音楽でもそのジャンルだけに完全にハマることなく、何か他のものとまたがっているような音楽が好きです。このアルバムはモーダルで聴きやすいけどブルージーな雰囲気があって、ちょっと東洋的なところもある。でも、何もうんちくがわからなくてもすんなり入り込めるアルバムでしたね。1961年だからモーダルなのはそんなに不思議ではないけれど、でも決して突っ走ってフリーに行ってるわけでもなくて、ちょうどいいところに収まっていると思います。たまたま僕の好みに合うだけかもしれませんが、これは人気のあるアルバムなんですか?

ー ものすごく人気があります。Nujabesが「The Final View」で「Love Theme from Spartacus」をサンプリングしたことによって若いヒップホップ世代のリスナーにも広く知られるようになりました。

バラカン なるほど、そうか。僕もCDで買ったから同じような時期かもしれない。

ー バラカンさんはユセフのどんなところに惹かれますか?

バラカン 彼が使うちょっと珍しい楽器が面白いですよね。さきほども話したように、オーボエなんてジャズで使うとは想像もしないことです。確かファゴットもときどき吹くんじゃなかったかな? あとは世界各国のいろいろな変わったフルート。本人もすごく好奇心があるんだろうし、いまで言うワールド・ミュージック的な興味があったんでしょうね。1964年にインパルスから出した『Jazz ‘Round the World』では世界中のいろいろな音楽を取り上げていますね。


Jazz ‘Round the World

ー 『Jazz ‘Round the World』では日本の「リンゴ追分」も演奏していますね。

バラカン 1964年というと東京オリンピックの年だから、そのあたりで来日してるのかな? キャノンボール・アダリーのバンドで一緒に日本に来てるかもしれない。

ー まさに、キャノンボールのセクステットの一員として1963年に来日していますね。その公演の模様は『Nippon Soul』としてアルバム化されています。ユセフは1961年の時点で『Eastern Sounds』のような東洋思想を打ち出したアルバムを作っているわけですから、当然日本の音楽には興味津々だったでしょうね。

バラカン 1961年の時点でこういうタイプのジャズをやっているのはすごく新しかったと思いますよ。いま聴いてもぜんぜん古い感じがしないもんね。

ー この『Eastern Sounds』の他にユセフのおすすめアルバムがありましたら教えてください。

バラカン 一時期ライノがローランド・カークだったりデイヴィッド“ファットヘッド”ニューマンだったり、いろいろなジャズ・ミュージシャンの2枚組のコンピレイションを出していた。そのひとつとして1994年に出た『Every Village Has a Song: The Yusef Lateef Anthology』をよく聴いていました。これはアトランティックのプロデューサーだったジョエル・ドーンが企画したもので、それぞれのアルバムから良い曲を集めて2枚組のコンピレイションにしているから抜群に聴き応えがある。僕はジャズを聴くとき、意外とコンピレイションを手に取ることが多いんですよ。


Every Village Has A Song: The Yusef Lateef Anthology

ー インタビュー中はずっと『Eastern Sounds』をかけてもらっていましたが、やはり素晴らしいアルバムですね。家に帰ってまた改めて聴き返そうと思います。

バラカン 本当に落ち着いてゆったりした気分で聴けるアルバムですよね。

ユセフ・ラティーフ(Yusef Lateef)
1920年、アメリカ・テネシー州チャタヌーガに生まれる。1925年に家族はデトロイトに引っ越し、デトロイトのジャズミュージシャン(ミルト・ジャクソン、ポール・チェンバース、エルヴィン・ジョーンズなど)と関わりを持つようになる。高校まではサックスを吹いていた。19歳の時、ディジーガレスビー楽団のツアーに参加。1957年にサヴォイレコードでリーダーアルバムを録音。1961年に『Eastern Sounds』を録音(発表は翌1962年)。その後も多くのアルバムを録音、発表する。1980年代にはナイジェリアに移住。2013年没。

公式サイト http://yuseflateef.com (英語)

スタッフからのオススメDreamtime Songs

ピーターさんへの取材には、高橋芳明さんをはじめ、スタッフ一同も自分が思う快眠にピッタリの曲を持ちよっています。今回は春にピッタリの曲が集まりました。ぜひ聞いてみてください。

高橋 芳朗 (音楽ジャーナリスト)

Nathan Davis – Spring Can Really Hang You Up the Most
アルバム「Happy Girl」 (1965)より

ピーターさんの選曲に合わせて、春を題材にしたジャズ、そしてフルートを含めたさまざまな楽器を操るマルチプレイヤーの作品を選んでみました。これはネイザン・デイヴィスがアメリカからドイツに渡り、同地のレーベル「サバ」に残した2枚のアルバムのうちのひとつ『Happy Girl』の収録曲。スタンダード「Spring Can Really Hang You Up the Most」(「春はいちばん憂鬱になる季節」の意)はこの時期になると必ず引っ張り出す一曲で、ワンホーンによる武骨ながらも優しい歌ごころにあふれる名演。当時ブルーノートに『Into Somethin’』や『Unity』といった傑作を残しているラリー・ヤングがピアノを弾いている点にも注目。

小山雅徳(Dreamtime Songs スタッフ)

The Heath Brothers -“Smilin’ Billy Suite (Part II)”
アルバム「Marchin’ On 」(1975)より

「春眠暁を覚えず」や「春はあけぼの」と昔から言われているように春の朝はたいへん気持ちが良いものです。個人的にそんなときにこんなサウンドが流れていたら、よけいにまどろんでしまいそうなこの曲をご紹介いたします。MJQのベーシスト、パーシー・ヒースを有するアメリカの名門音楽一家ヒース・ブラザースの1976年、デビュー作「MARCHIN’ON!」におさめられています。ピアニストにスタンリー・カウエルを迎え制作された本作は、スピリチュアルジャズの名盤をたくさん擁するストラタ・イーストレーベルからリリースされました。
この曲はNASの「ONE LOVE」にてサンプリングされたことで広く知られることになります。スタンリー・カウエルが調音したと思われる親指ピアノ(カリンバ)のミステリアスな響きが印象的なこの曲を聴いていると、ずっとこのまま春眠を楽しんでいたいような夢心地へと運んでくれます。

AKISUKE(世界睡眠会議 編集部)

Kenny Burrell – Weaver Of Dreams
アルバム「Weaver Of Dreams」(1961)より


(2:07~) 

この作品は、ジャズ・ギターの第一人者であるケニー・バレルが、ほぼ全編を通して歌を披露するヴォーカル・アルバム。こんなに歌が上手いって、みなさんご存知でしたか?(そもそも、歌を歌ってることも、そんなに知られてないのでは?)しかも、うっとりするような甘い声から、彼のギター・プレイでは代名詞でもあるブルージーな歌声まで、なかなかなもんです。
今回は、このアルバムからタイトル曲の「Weaver Of Drems」を選んでみました。
穏やかな時間が、ゆっくりと流れていく、まさに春の日の午後のお昼寝にぴったりの曲だと思います。公園の芝生で寝転んで聴いたら、最高でしょうね〜。おそらく、すぐに寝落ちするでしょう。
ケニー・バレルは本業のギター・アルバムはけっこう多作です。その中でヴォーカル・アルバムとなると、この作品だけかと思っていたら、実は、2000年代に入ってからの数枚のアルバムで、彼はまた歌ってるみたいですね。そちらも是非、聴いてみたいと思います。

三浦 敦(世界睡眠会議 編集部)

Dollar Brand – Anthem For The New Nation
アルバム「African Marketplace」(1980)より

春は入学や進級、また新しい仕事を始める方も多い季節。そんな希望に満ちた季節に、暖かな日差しを感じながらのお昼寝にピッタリのこんな曲はいかがでしょう?
南アフリカ出身でネルソン・マンデラ大統領の就任時にも演奏したジャズピアニスト、ダラー・ブランドの「新しい国のための讃歌」です。演奏された1980年はまだアパルトヘイトの真っ最中でしたが、彼にはもう新しい自由で平等な国のイメージが見えていたのでしょう。アフリカの豊かな大地を感じさせる穏やかな曲です。このアルバムは通して聞いていくと終わるまえに幸せな気持ちで微笑みながら寝落ちできそうです。

Peter Barakan ピーター・バラカン
1951年ロンドン生まれ。ブロードキャスター。
1980年代から日本のラジオDJ、ブロードキャスターとして古今東西の素晴らしい音楽を紹介。日本の音楽文化を格段に豊かにした功労者のひとりであり、多くの音楽ファンから絶対的な信頼を集めている。

books
ロックの英詞を読む 世界を変える歌
ピーター・バラカン著(集英社インターナショナル)

radio
Barakan Beat
「バラカン・ビート」

interFM /Sunday6.00-8.00pm
Weekend Sunshine
「ウィークエンド・サンシャイン」

NHK-FM/Saturday7.20-9.00am
Lifestyle Museum
「ライフスタイル・ミュージアム」

TokyoFM/Friday6.30-7.00pm

tv
Japanology plus
「ジャパノロジー・プラス」

NHKBS(in Japan) Tuesday3.00-3.30am
Offbeat&jazz
「オフビート&ジャズ」

WOWOW/check for dates and times

website 
peter barakan dot net


取材・文 高橋芳朗

1969年生まれ。東京都港区出身。タワーレコードのフリーペーパー『bounce』~ヒップホップマガジン『blast』の編集を経て、2002年からフリーの音楽ジャーナリストに。エミネム、ジェイ・Z、カニエ・ウェスト、ビースティ・ボーイズらのオフィシャル取材の傍ら、マイケル・ジャクソンや星野源などライナーノーツも多数執筆。共著に『ブラスト公論 誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない』や 『R&B馬鹿リリック大行進~本当はウットリできない海外R&B歌詞の世界~』など。2011年からは活動の場をラジオに広げ、『高橋芳朗 HAPPY SAD』『高橋芳朗 星影JUKEBOX』『ザ・トップ5』(すべてTBSラジオ)などでパーソナリティーを担当。現在はTBSラジオの昼ワイド『ジェーン・スー 生活は踊る』の選曲も手掛けている。

ジェーン・スー 生活は踊る
都市型生活情報ラジオ 興味R
高橋芳朗(Twitter)


小山雅徳(DREAMTIME SONGS スタッフ)
なによりレコードが大好き。音楽を通していろんな人やいろんな事との出会いを楽しんでいます。ピーターさんには30年くらい前からお世話になりっぱなしです。毎月第四水曜日渋谷BARMUSICにてDJイベント「バミューダ・トライアングル」を共催。インスタグラムやってます。(こやままさのりneedletime1963)

AKISUKE(世界睡眠会議 編集部)
広告会社で仕事をしつつ、音楽執筆(JAZZ NEXT STANDARD、ムジカ・ロコムンド etc)やイベント(BERMUDA TRIANGLE@BAR MUSIC、SECRET RISORT@CAY etc)などの活動も。

三浦 敦(世界睡眠会議 編集部)
編集部からもレコード好きの担当者がエントリー。取材のたびにピーターさん、高橋さん、小山さん、Akisukeさんの恐るべき音楽知識と曲の蓄積に触れて勉強中です。


撮影協力
Music bar 45
http://musicbar45.blog.jp/
今回の取材は、東京・渋谷にある音楽好きが集まるバー、「music bar 45」で行いました。

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バックナンバー

世界の眠族音楽 Vol.11:ジョン・クリアリー
世界の眠族音楽 Vol.10:フリートウッド・マック
世界の眠族音楽 Vol.9:J.J.ケイル
世界の眠族音楽 Vol.8:ノーラ・ジョーンズ
世界の眠族音楽 Vol.7:アーレン・ロス
世界の眠族音楽 Vol.6:Stuff
世界の眠族音楽 Vol.5:サント&ジョニー
世界の眠族音楽 Vol.4:リオン・レッドボーン
世界の眠族音楽 Vol.3:チャールズ・ロイド
世界の眠族音楽 Vol.2:ボビー・チャールズ
世界の眠族音楽 Vol.1:ピンク・フロイド