睡眠ニュース

「眠気の正体」に迫る発見!?
柳沢教授に「どのくらいすごい」のか
聞いてみました!

眠りの世界の大ニュース?

2018年6月。「眠気の正体が判明!」というニュースが新聞各紙などで報じられました。

筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)のリウ・チンファ教授、柳沢正史教授らのチームが、「眠気」の正体を解く大きな手がかりとなる、80種類の脳内のタンパク質におけるリン酸化状態の変化を発見」したのです。

ニュースのポイント

「眠気」の生化学的な実体に迫る
〜睡眠要求を規定するリン酸化蛋白質群の同定〜

  • マウスによる実験で、眠気の実体や眠りの機能に重要な役割をもつと見られる 80 種類のタンパク質(眠くなるとリン酸化する)を同定。
  • 覚醒時間が延長するほどリン酸化が進行することから、脳内の睡眠要求を定量的に反映していると結論。このタンパク質群を睡眠要求指標リン酸化蛋白質 「スニップス」(SNIPPs=Sleep-Need-Index-Phosphoproteins)と命名。
  • 80種類のスニップスのうち69がシナプス(脳の神経細胞の接合部分)の機能や構造に重要なタンパク質であったことから、眠気の正体というだけでなく、眠りの機能においても重要である可能性が高い。

筑波大学のプレスリリースより)

これはすごい!

……って、はたして、どのくらいすごいのでしょうか? そもそも、タンパク質のリン酸化って何? いろんな新聞記事や大学のリリース資料を読んでも、この発見の真価がちゃんと理解できた気がしません。

そこで、柳沢教授へ電話で直撃質問。気になるポイントについてのコメントをいただきました。

Q. 今回の発見は、どのくらい価値があるんでしょう?

まずは失礼ながら、今回の発見は、ほんとにすごいことなんですか? というぶしつけな疑問です。門外漢にもわかりやすいようにと、以下の例を挙げてみました。

1. 研究チームで祝杯をあげるくらいうれしい発見!
2. 世界の睡眠研究者からお祝いのメールが届くくらい価値ある発見!
3. 睡眠研究の歴史を変えてしまうくらいすごい発見!

実際にチームのみんなで祝杯をあげたし、海外の研究者から祝福のメールをいただきました。もちろん画期的な成果なんですが、睡眠研究の歴史を変えるかどうかは、まだわかりません。ただ、将来、振り返ってみるとそうなる可能性は高いかも

ちなみに、こうした研究成果は「ある日突然、大発見が生まれるイメージではありません。今回の論文(イギリスの科学誌『ネイチャー』に発表)も、最初の投稿から2年近くかけて改訂を重ねました」とのこと。科学に「近道」なんてないのです。

Q. 眠りって、まだ謎だらけなんですね?

筑波大学のプレスリリースでは、今回の発見が「眠気の正体を解く大きな手がかりとなる」とされています。つまり、眠気の正体は人類にとってまだ謎のまま、ということですよね?

睡眠研究には、大きな2つの謎があります。ひとつが、人はなぜ眠くなるのか(眠気の正体)。そしてもうひとつが、人はなぜ眠らなければならないのか(睡眠の機能)ということです。今回の発見は、眠気の正体だけでなく、睡眠の機能についても解き明かすきっかけになる可能性があるのが特筆すべきポイントといえます

この発見が睡眠の謎を解き明かすための、大きな一歩であることは間違いありません。

Q. 「リン酸化」って何ですか?

ところで、そもそも素人には「タンパク質がリン酸化」の意味がわかりません。筑波大学のリリースによると「高エネルギーリン酸結合をもつアデノシン三リン酸(ATP)などの分子から、ターゲットとなる分子にリン酸基を転移する化学反応」と、さらに謎が深まるばかり。柳沢先生、わかりやすく教えてください!

タンパク質は体内でいろんな機能を果たしています。電気製品にたとえると、リン酸化はスイッチやボリュームのようなものといえます。あるタンパク質の特定の場所にリン酸が結合することで、機能のオン・オフが切り替わったり、ボリュームのように強さが調節されます

なるほど。「リン酸化は、タンパク質のスイッチ」というのはわかりやすくて、理解できた気がします。タンパク質のリン酸化は脳内だけでなく、人の体内のさまざまな臓器で起きている「細胞内のシグナルを伝える主要なメカニズム」とのこと。ちなみに、柳沢教授としては「眠いときにリン酸化が変化することは想定して研究を進めてきましたが、実際に『眠いとリン酸化したタンパク質が増える』というあまりにも単純な結果は意外でもあり、研究者として面白く感じた」そうです。

人のカラダの中には数万種類以上のタンパク質が存在するとされていて、今回の発見は、なかでも脳内で働く「80種類」に絞り込んだことに価値がある、ということですね。

Q. この発見によって、どんな「いいこと」があるのでしょう?

「眠気の正体を解明する手がかり」と聞くと、画期的な睡眠薬が開発されたり、眠らなくてもよくなるような薬やノウハウが生まれるのでは? と、素人考えで期待が膨らみます。将来的に、どんないいことが期待できるのでしょうか?

(会議や運転など)眠ってはいけない時に眠くならないようにする薬や、今までとは全く違うメカニズムの効果的な睡眠薬などの開発に結びつく可能性はあるでしょう。でも、例に挙げられているような『眠らなくてもよくなる薬』は、不可能でしょうね。一時的に眠気を抑える程度であればともあれ、長時間眠らないと、必ずしっぺ返し、つまり副作用があるからです

Q. IIISとして、この研究はさらに進んでいるのですか?

いずれにしても、睡眠の謎解明に大きく近づく大発見。柳沢教授が機構長を務めるIIISでは、研究のステップがさらに進んでいるのでは?

今回の研究では、脳のシナプスにある80種類のタンパク質を突き止めました。ただし、段階としてはまだ、眠気の正体の、影がぼんやりと見えてきた程度です。次の段階として、どのタンパク質の、どの部位がリン酸化すると何が起きるのかということを、ピンポイントで絞り込んでいく研究を進めていくことになります

はたして、私たちの眠りにどんな未来が開けるのか、楽しみです。

今回は、学会に出席中の空き時間での電話取材に応じていただきました。柳沢教授、本当にありがとうございました。『世界睡眠会議』では、柳沢教授とIIISの今後の研究成果にも、しっかり注目していきます!

記事はここまで

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